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第74話 誘惑の夜 3

部屋に入ると、思ったより狭く、ふたつ並んだベッドの間は50センチほどしかなかった。 これ、もうほぼ添い寝じゃん・・・。 「涼太さん、どっちのベッド使いますか?」 「あ、じゃあ入口側で」 最悪、逃げれるよーにしとかねーと。 「先、シャワーどうぞ。俺、その間に明日の仕事、確認しときたいんで」 「じゃあ、先使わせてもらうな」 バスルームに入ると、ヒヤッとした空気が肌に当たる。 この部屋、めっちゃ寒っ! 「タケル、ありがと。おまえも入ってこいよ」 「・・・はい」 バスルームから出てきたオレを凝視するタケル。 「・・・え?なんか付いてる?」 「いえ。あの、涼太さん」 タケルが近付いてきて、オレの手首をそっと掴む。 え!?なに!? が、すぐに掴んだ手を離す。 「この部屋少し寒いんで、エアコンつけた方がよさそうですね」 タケルが、エアコンのスイッチを入れる。 「うん。寝る時消していい?喉痛くなるし」 「はい。じゃあ、俺もシャワーしてきます」 ・・・なんだったんだ、今の。 でも、変な事してくる感じじゃなかったよな? 好きだって言われたからって意識しすぎてたのかな、オレ。 ベッドに横になると、早起きしたせいか、瞼が重い。 オレはそのまま深い眠りに落ちていた。 ーータケルがバスルームから出てくると、すでに涼太は毛布にくるまって寝ていた。 「涼太さん?」 ーータケルの呼びかけにピクリともしない涼太。 俺の何倍も仕事こなして、朝も早かったし疲れてるよな・・・。 姉貴はああ言ってたけど、付き合ってる人もいて、俺の入り込む隙間なんて無さそーだな・・・。 「涼太さん、恋人にどんな風に抱かれてるんですか?」 ーー眠る涼太の横顔に問いかけるタケル。 「ん、・・・さむ・・・」 ーー涼太は、巻いた毛布をさらに引き寄せて、体を小さく丸める。 やば・・・。涼太さんがめっちゃかわいい。 「無理なことはしません。でもこれだけ、許してください」 ーータケルは丸まった涼太の背中に寄り添って、包み込むように抱きしめた。 「う・・・ん、青?」 恋人と勘違いしてる?・・・キツいな。 でも、今日だけ、このままでいたい。 ・・・ほんとはこのまま奪っちゃいたいけど。 「涼太さん、大好きです」 ーー涼太から、どことなく甘い香りがするような気がして、理性が飛びそうになるのをタケルは必死で堪えていた。 ピピピピピピピピピ ・・・アラーム・・・起きなきゃ・・・ ん?なんか重・・・ アラームの音で目が覚めたオレは、体に重みを感じて、寝たままで振り返る。 「え!?」 た、タケル・・・? 背中にぴったりくっついて、オレの体に手を回して寝ているタケルの顔が間近にあって、心臓が飛び出そうになる。 「う・・・涼太さん、起きたんですか?」 「たたたける・・・これはど、どーゆー状況?」 慌ててタケルから離れてベッドを下りる。 「涼太さん、昨日すごく寒がってて、風邪ひいちゃいけないなと思って、くっついちゃいました」 「・・・それだけ?」 「はい。それだけです」 はあ、よかった。 「すみません。勝手にくっついちゃって」 「え?イヤ、こっちこそ、なんかごめん。・・・あ、仕事行く準備しよっか・・・」 「はい」 「涼太さん、運転も仕事もお疲れ様でした。ありがとうございました」 「お疲れ様、じゃあまた月曜日に」 無事出張から帰り、駅でタケルと別れる。 ・・・今朝の事、青に報告しないとダメだよな。 はあ、帰るのがこえーよ。

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