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第79話 純愛 1

出張の時の事を、青は納得してくれたけど、オレはタケルにハッキリ断れない自分に、嫌気がさしている。 どうせなら、強引に接近してくれた方が断りやすいのに・・・ ああ~。いつものオレなら、痴漢に蹴り入れたり、逆ナン女子をスパッと断れるのに! あさみさんに対してもそうだけど、職場の雰囲気が悪くなんのも嫌だしな~。 「涼太さん、休憩明け、バックヤードの整理、俺も手伝います。今日の入荷多いんで」 タケル・・・。ありがたいんだけど、今は二人きりになりたくないってのが本音。 「イヤ。オレひとりで大丈夫だよ」 「さっき、店長から指示あったんで」 「そーなんだ・・・。じゃあ、頼むわ」 店長!何してくれちゃってんだよ! 休憩が終わり、タケルとふたりでバックヤードに積まれた、商品が入っているダンボールを種類ごとに分ける。 年末のセールに向けて、大量の商品が入荷されたため、配達業者が持ってきたダンボール箱の山は、2メートル近くまで積み上がっていた。 コレ、ひとりじゃ捌けなかったわ。タケルいて良かった。 「涼太~。メンズのロンT、入荷してんの店頭のスタッフに出してもらうから、先ピックアップしといてくんない?」 「了解です」 店長に言われ、ロンTが入っている箱を探す。 ・・・あった。けど一番下じゃん!マジか。 とりあえず、上から順番に降ろすか。 ロンTが入った箱に積み重なった、一番上のダンボール箱に手を伸ばす。 持った瞬間、箱の山がグラッと動く。 あ、ヤバイかも・・・ 思った時にはもう遅く、大量の重いダンボール箱が崩れて、下敷きになってしまった。 「いってぇ・・・」 でも、思ったより衝撃は少なかったみたいだ。 「え・・・タケル?」 タケルがオレに覆いかぶさるように倒れている。 あんまダメージ無かったのって、タケルが庇ってくれたから・・・? 「タケル、大丈夫か?」 声をかけるけど、反応がない。 「おいタケル・・・」 床に横たわるタケルの頭部から血が出ている。 頭・・・打った? 背中を嫌な汗が伝う。 「店長!救急車呼んでください!箱が崩れて、タケルが動きません。頭から出血もしてます!」 店長にインカムを飛ばしてから5分ほどで救急車が到着して、他のスタッフ達が騒然とする中、タケルが運ばれる。 「店長、オレ付き添ってもいいですか?」 「ああ、頼むよ。後で連絡してくれ」 「わかりました。すみません」 タケルと一緒に救急車に乗り込み、救急隊員に状況説明する。 なんでオレなんか庇うんだよ。 さっきまで、断りづらいとか、気まずいとか思ってたのに・・・ オレは、意識の無いタケルを見て震えそうになる体を抑え、心の中でただタケルの無事だけを祈っていた。

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