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第83話 繋いだ手 1

涼太の手を引き、病院の外へ出て駅へ向かって歩く。 「なあ、怒って・・・る?よな?・・・ごめん」 涼太が申し訳なさそうに謝る。 「怒ってない」 腹が立っていたはずだった。 でも、あいつと繋がれていた涼太の手を見た時のショックが大きすぎて・・・ 「涼太、知ってた?」 「何?」 「俺たち、ちゃんと手繋いだ事なんかないんだよ」 「そーだっけ?」 そーだよ! 涼太がそんなん、意識するわけねえとは思ってたけど! 「俺は、ずっとこの手に触れたいって、この手を引いて歩きたいって思ってた」 「・・・」 「なのに、なんでおまえは、俺より先に他の男に簡単に許すんだよ」 悔しすぎて・・・おかしくなりそうだ。 俺は、涼太のことになると、自分でも怖いくらい心が狭くなる。 マジで情けねえ。 俺が引いている手を、涼太がぎゅっと握り返してくる。 「そーゆー事は早く言えよな」 少し後ろを歩いていた涼太が俺の隣に並ぶ。 「オレ、好きになったの、青が初めてじゃん?だから、ちゃんと言ってくれないとわかんねぇから」 涼太・・・。 「青が嫌がる事はなるべくしたくないし、して欲しい事はできるだけしたい。それって、好きって事だろ?」 きゅん こいつ、天然たらしだ・・・絶対に! 「駅着いたら、手離せよな。それまでは繋いでてやる」 涼太はそう言って、口元をマフラーで隠す。 繋いでいた涼太の冷たい手が、少しだけ暖かくなった気がした。 部屋に帰って、涼太はシャワーを浴びに行き、俺は簡単な朝食を用意する。 「ゴハン・・・そーいえば昨日から何も食ってねー」 シャワーを終えてバスルームから出てきた涼太が、タオルで髪を拭きながらソファに座る。 「目玉焼き作るけど食う?」 「オムレツの方がいい。オレ自分で作る」 そうですか。でも確かに涼太が作った方が美味いもんな。 涼太がキッチンに入って来て、手際良く玉子を掻き混ぜてフライパンに流し入れる。 こいつ、頭悪いし口悪いし、足癖悪いし掃除はできねぇけど、運転してる姿とか、器用に料理してる姿とか、ほんと絵になるってゆーか・・・。 「涼太、俺の分も作って♡」 「え、めんどくさ」 と言いつつ、作ってくれる涼太。 ああ~、いい嫁過ぎる。 「ハイ、出来た。早く食って大学行けよ。オレ寝るから」 「は?なんで?今日は俺 、涼太といたいんだけど」 つーか、今からヤるつもりだったのに! 「さぼんなっつったろ。遊びで大学行ってんのかよ」 ぐっ。ほんと変なとこ真面目なんだよな。 「俺、昨日、涼太いなくて寂しくて心配で、寝れなかったんだけどな・・・」 俺がそう言って大袈裟にしょぼんとしてみせると、涼太は、はあ、と溜息をつく。 眠れなかったのは本当だし! 「今日だけだからな!明日からはサボったらぶち殺す」 「じゃあ、飯食ったら一緒に寝ような」 睡眠の意味じゃないけどな。

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