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第94話 接近 1

のぞむ、タケルの事好きなのか~。 仕事中、入荷された服をハンガーに掛けながら、向かいで一緒に作業しているタケルを何気なく見る。 ばちっ やべ、目合っちゃった。 「なんですか?」 「あ・・・イヤ。なんでも。頑張ってんな~と思って」 「涼太さんが見てくれるなら、俺、仕事でもなんでも死ぬ気で頑張りますよ」 だから、返事に困るんだって、そーゆーの。 「今日も遅番ですね。またのぞむさんに邪魔されるんですかね」 はあ、とタケルが溜息を吐く。 のぞむ、タケルの事好きだよ。・・・ってのは言わない方がいいんだろーか・・・。 帰り道、タケルと並んで歩く。 ふと、オレをかばった時に出来た傷跡が目に入った。 「タケル、傷、痛い?」 「もう大丈夫ですよ。そんなに深くないし、ほんと気にしないでください」 そう言われても、なんか責任感じちゃうんだよな・・・。 「涼太さん、こっち」 「わっ、なに?」 突然タケルに腕を引かれて、薄暗い路地の方へ連れていかれる。 「どうしたんだよ、急に」 「しー。ちょっと静かにしてて」 なんなんだよ。 「・・・もう行ったかな」 「何がだよ」 「のぞむさんですよ。俺、苦手なんです。あの人」 のぞむ・・・なんて不憫なんだ・・・。 「俺は少しでも涼太さんと二人でいたいのに」 タケルがジリジリと近付いてきて、建物の壁とタケルの両腕に囲まれてしまう。 ヤバイ。こーゆーの、青に何度かされてるから、危険だってゆーのがわかるぞ! 「た、たけるっ、落ち着いて・・・」 「落ち着いてますよ。言ったでしょう、手を繋ぐ以上の事はしないって」 タケルの顔がどんどん近付いて、鼻先で止まる。 「もう少し、近付いてもいいですか?絶対に触れないって約束します」 約束約束って・・・。 「近付きますね」 返事ができないオレをわかっているかのように、タケルが唇を寄せてきて、目が合ったまま、触れそうなくらいの至近距離で止まる。 「今、涼太さんが動いたら唇、当たっちゃいますね。嫌なら動かないでください」 「あ・・・」 どどどどーしよ。動いたらまずい! けど、ずっとこのままいるわけにも・・・ オレは、タケルの視線から逃げるように目を逸らす。 「なんですか?それ。誘ってるようにしか見えないです」 「さ、誘ってない」 「でも涼太さん、目、潤んでますよ」 そりゃー、こんな状況ですから! 困ってるよ!泣きたくもなってくるよ!後輩蹴り飛ばすわけにもいかねーし!どーしていいかわかんねーし! 「はあ・・・」 溜息をついて、タケルが離れる。 ホッ 「あからさまにホッとしないでください。傷付きます」 「あ、ごめん・・・」 「少しは動揺してくれましたか?」 「そりゃ、こんなことされれば、誰だってすんだろ!」 「よかった」 タケルが嬉しそうにニコッと笑う。 ・・・何がそんなに嬉しいんだよ。 意味わかんねぇ。 のぞむにこーゆーのしてやったら、絶対喜ぶのに。とオレは思うぞ。

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