94 / 210
第95話 接近 2
のぞむにこーゆー事・・・って、そーいえばのぞむ、キスされそうになったとか言ってなかったっけ?
「タケルさ、こーゆー事、誰にでもやってんの?」
「どういう意味ですか?」
「え?イヤ、こーゆー事されて勘違いするヤツもいるんじゃないかなーと思っただけ」
のぞむに聞いたって言えねーしな。
「涼太さんが気にする事じゃないです」
・・・それもそうか。
「それとも、勘違いして俺を好きになってくれるんですか?」
ええ!?それは・・・
「それは、ない。タケルは、可愛い後輩だとしか思えない」
それに、オレはやっぱり青が好きだから。
「酷いですね、涼太さん。俺の気持ちに応えてくれる気もないくせに」
「ごめん。オレ、余計な事言ったな・・・」
タケルの両手で頬を包み込まれて、顔がまた近付く。
「なんとも思ってない奴には、このままキスします。でも、涼太さんは違う」
「ちょ、た、離し・・・」
「したいけど、できない。大事過ぎてできないんです。もし、涼太さんが許してくれたとしたら・・・」
タケルの顔が苦しそうで、何だかこっちまで胸が苦しくなってくる。
「涼太さんがボロボロになるくらいに、酷いことしてしまいそうで、これ以上できないんです」
タケルの言葉に、背筋がゾクッとする。
あ・・・今わかった。タケルを遠ざけられない理由。
こいつ、青に似てる。
見た目は違うけど、なんだろ・・・何となく。
「涼太さん?」
「え?」
「そんな顔してると、我慢できなくなっちゃいます」
タケルの手が離れる。
「もうのぞむさんもいないだろうし、帰りましょうか。すみません、引き止めてしまって」
「あ、うん」
大通りに出るが、のぞむの姿は無いようだった。
タケルが手を離さなかったら、オレ、あのまま流されてたかも・・・
ってダメだろ!
いくら、タケルが青に似てるからって!
そもそも男だし!男ばっかいらねーし!
「今日は、久しぶりに涼太さんとふたりでいれて、嬉しかったです。これから俺、のぞむさん見かけたら全力回避します!お疲れ様でした」
「おつかれ。気をつけて帰れよ」
のぞむ、かわいそーだな。・・・なんか、ごめん。
駅でタケルと別れて、家に向かう。
オレ、流されやすいのかな~。
こんなんじゃ、また青、怒らせちゃうな。
気をつけねーと。
「涼太」
「うわっ!」
アパートの近くまで来て、暗い中、急に声をかけられてドキッとする。
「あああ、青。くく暗闇からいきなり声掛けんなよな!びっくりすんだろ!」
「涼太が遅いから。ビックリしたくねぇなら、心配させんじゃねーよ」
心配、してくれてんだ。
なんか、じーんとすんな、こういうの。
「ごめん。ありがとな、青」
青の襟元をグッと引っ張って、キスする。
「ただいま」
「・・・涼太ぁぁぁ~!涼太からただいまのキスとか!やっべえ!」
「夜道でうっせぇ!近所迷惑だろ!」
未だにオレからのキスひとつで、こんだけテンション上がるとか、おめでたいな、コイツ。
オレは、タケルが手を出してこない事に、安心しすぎていたのかもしれない。
まさか、オレの油断が、青との日常を壊す事になるなんて・・・
ともだちにシェアしよう!