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第100話 手に入れるためなら 1

涼太が催淫剤をのんでしまったあの夜。 タケルから電話で事情を聞いた俺は、腸が煮えくり返る思いだった。 なんでだよ。 なんで涼太はいつも、俺だけのものでいてくれないんだ。 正直、心配するのも不安になるのも、もう疲れた。いっそ嫌いになれたら楽なのに。 「青くん、隣いい?」 キャンパス内のベンチに座っていた俺に、加藤が話し掛けてくる。 「なんか用でも?」 加藤と話す気分なんかじゃないけど。 「コレ、なんだと思う?」 隣に座った加藤が、スマホの動画を俺に観せる。 『・・・めますか?』 『違くてっ。もっと触って欲しくて。青なら・・・』 なん・・・だよ、これ。 スマホの画面には、正面から映った男と、もう一人顔は見えないが男らしき人物が映っている。 正面を向いている男は少し遠目に映っているが、涼太だとハッキリわかった。 「良く撮れてると思わない?脱いでないのが残念だけど」 コイツ・・・。 「ホント、アイツも弟もバカよね。面白いくらいに引っかかってくれるんだもん」 弟・・・? タケルは加藤の弟なのか? 「私ね、ゲイなんて大っ嫌いなの。いつも私から好きな人を奪っていく。でも、今度こそ邪魔させない」 加藤が一瞬険しい顔をする。 が、すぐに取り繕った笑顔を俺に向ける。 「この動画、ネットで流したら面白いと思わない?」 「やめろ」 「どうしよっかな?青くん次第なんだけど」 何考えてんだ、この女。 「俺にどうしろって?」 「私、青くんが好きなの。アイツと別れて、私を選んでほしい。そしたらこの動画、削除するわ。約束する」 「最低な女だな」 「なんて言われてもいい。私、青くんを手に入れるためならなんでもするわ」 加藤。お前は本当に忌々しい・・・。 だけど、従わなければ涼太が晒し者になってしまう。 それだけは・・・ 涼太が、傷付けられるなんて耐えられない。 「・・・わかった」 「ほんと!?うれしい!じゃあ、なるべく早く私のところに来てね。待ってるから」 加藤が嬉しそうに笑って、じゃあね、と去っていく。 加藤がこんなに最低な女だなんて、思いもしなかった。まさか自分の弟まで利用して・・・ だけど、今は従うしかない。涼太を守る為にも。 その日の夜 「ただいまー」 「おかえり、涼太」 仕事から帰った涼太が、いつもの様に俺の横に座る。 ・・・ 「おかえりのキス・・・しねーの?」 恥ずかしそうに言う涼太が愛しくて、胸がきゅうっとなる。 だけど・・・ 「しない」 「なんで?」 少し拗ねた顔になる涼太。そんな顔もたまらなくかわいいと思う。 「もう、キスはしない。その先も」 「・・・え、どういう意味・・・」 「涼太の事、もう信じらんねぇから」 嘘だ。俺は、どれだけ涼太に裏切られたとしても、嫌いになるなんてきっとできない。 「もうお前と一緒にいるのがつらい」 ずっと一緒にいたい。どれだけ辛くて、苦しくなっても、離れたくない。 「青・・・?」 そうやって、ずっと、何度でも俺の名前を呼んで欲しい。 こんな風にずっと隣にいてほしい。 涼太が好きだ。 誰よりも、何よりも。 誰にも渡したくない。 涼太を手離したくない、絶対に・・・ 俺以外の誰にも、涼太を傷付けさせない。 涼太を傷付けていいのは、俺だけだ。 「涼太、別れよう」

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