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第117話 邪魔者 1

俺の、突然のキスにも顔色ひとつ変えないタケルくん。 そりゃそうか・・・。 動揺させることすらできないんだ。俺じゃ・・・ 「ごめん。ちょっと、チャンスかな、なんて思って・・・。なわけないよね~」 タケルくんからパッと離れる。 「俺、言いませんでしたっけ?」 「え?」 「どうでもいいヤツは抱き潰して黙らすくらいはするって」 「・・・言ってたね」 「涼太さん以外は、どうでもいいヤツらです。のぞむさんも、そのうちの一人ですよ」 それって、つまり・・・ 「男との経験はあるんですか?」 「・・・ない、けど」 少しは、自分でなんとかできるようにはなったはず。 「俺は、抱くことしかできませんよ」 俺とは目を合わさずにタケルくんが淡々と話す。 俺を見てくれなくてもいい。その他大勢のうちの一人でもいい。心の中にいるのが涼ちゃんでも構わない。 俺は、好きになった人と、繋がってみたい。 「それでも、タケルくんと、したい」 そのまま、何も話すこともないまま俺のアパートへと辿り着く。 ドアを開ける手が少し震えて、自分が緊張しているのがわかる。 今まで、何人女を抱いても、震えることなんかなかったのに・・・ 「無理してるなら帰ります」 「無理してない!ただ、ちょっと緊張しちゃって」 勢いでドアを開けて、タケルくんを招き入れる。 「しゃ、シャワーとか浴びた方がいいよね?」 「別に、俺はどっちでも」 「あ・・・じゃあ、適当に座ってて」 コートを脱いで、バスルームに向かおうとする俺の腕をタケルくんに引っ張られる。 「めんどくさいの嫌なんで、早く終わらせましょう」 そのまま腕を引かれて、部屋の奥にあるベッドに押し倒される。 覆いかぶさったタケルくんが上から俺を見下ろす。 わ・・・。女の子の目線て、こんな感じなんだ・・・。支配されてるみたいな感覚。 「涼太さんの代わりとか思わないでくださいね」 「うん」 わかってる。タケルくんにとって、涼ちゃんの代わりになれる人なんて、いない。 唇が重なってすぐに舌が絡んで、深いキスになる。 口付けながら、タケルくんがジャケットを脱ぐ仕草にぞくっとした。 今ここに、涼ちゃんと山田みたいな甘い雰囲気はひとつも無くて、ただ、欲望しかない。 それでも俺は、タケルくんの服を脱ぐ仕草に、晒された骨格や筋肉に、いちいち胸が騒がしくなって、勘違いしちゃいけない体の熱さに溺れそうになる。 「のぞむさん、本当に初めてなんですか?」 表情ひとつ変えないタケルくんが俺の中にいる。 「あ・・・誰かを、入れたのは・・・初めて、かな」 ローション使ったとはいえ、意外とすんなり入った・・・?がんばって開発しといて良かった! 「後ろだけでイケないと思うんで、前は自分で弄ってください」 「・・・わかった」 タケルくんの動きが速くなって、さっきまで変わらなかった表情が少し崩れて、息があがってくる。 俺でも、こんな顔になってくれるんだ・・・。 堪らなくなって、思わずタケルくんの首に腕を回すと、答えるようにキスを返してくれる。 俺に気持ちが無いってわかってるけど、それでも好きな人とひとつになれるって、こんな気持ちよかったんだ。 次は無いかもしれないけど・・・。 それでも、俺にこんな気持ちを教えてくれて、ありがとう、タケルくん。

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