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第130話 交錯 1

日曜日、涼太が仕事に行っている間に、俺は実家に来ていた。 「親父は?」 「いないわよ、朝早くからゴルフに行ったわ。中間管理職は休みなんかないの!居ない方が楽でいいけどね~」 リビングに掃除機をかけていた母が手を止める。 「何?お小遣いでもせびりに来たの?」 「ちげーよ。・・・なあ、ちょっといい?」 ソファに座った俺に向き合うようにテーブルを挟んで母が床に正座する。 「どうしたの?あらたまっちゃって、気持ち悪い」 「俺さ、大学辞めたいんだけど。無理なら休学」 「はあ!?何言い出すかと思えば、そんな事?ダメに決まってるじゃない!いくらかかってると思ってんのよ!」 ですよね・・・。 「・・・理由はあるの?」 いつかは言わなきゃならない。きっと、それが今だ。 「俺、涼太が好きなんだ。離したくない」 母の表情が険しくなる。 「・・・本気で言ってるの?男同士でしょう?だいたい、離れたくないって、一緒に住んでるじゃない」 「涼太を好きなのは本気。離れたくないっていうのは・・・涼太が仕事で上海に行く。だから、俺も一緒に行く」 「あんた、自分が何言ってるか分かってるの?私が、はいそうですかって言えるわけないでしょう」 わかってる。息子が男を好きだなんて、受け入れられないことも。 「涼太くんとどういう関係なの?向こうもあんたを好きなの?ついてきて欲しいって言ってるの?」 母が捲し立てる。 「涼太とは、真剣に付き合ってる。涼太も俺と同じ気持ちだって信じてる。ただ、一緒に来て欲しいなんて言ってない。・・・俺が行きたいだけ」 「ちょっと待って。頭痛くなってきたわ。付き合ってるって・・・その、一線超えてるって事?」 「・・・うん」 返事をするのに一瞬躊躇したが、俺は正直に答えた。 「どうして・・・はあ。相手が女の子じゃダメだって事なの?」 母がこめかみを抑えて下を向く。 「女がダメなんじゃない。男が好きなわけでもない。俺は、涼太が好きなんだ。隠してたけど、ずっと前から好きだった。やっとの思いで手に入れて、離れるなんてできない」 こんな事を言って、母を困らせるのはわかっている。 だけど、俺は・・・ 「好きになったのなら仕方ないと思う。まして二人が本気だって言うなら、好きにしたらいい。でも、大学は辞めさせない。もちろん休学もさせない」 「俺は涼太と離れたくない」 「あんた、成人したからって、まだ親の世話になってる身でしょう。一人前になってから言いなさい。そうじゃなきゃ認めない。それでもまだ本気だって言うなら、その時に二人で来なさい。・・・お父さんにはまだ言わないでおくから」 「俺は、涼太と離れるなんてできねーんだよ!」 「いい加減にしなさい!もう話は終わり。あんたの本気は離れたら終わるものなの!?その程度のものなら別れなさい!そんな事でダメになるのなら、男同士でやってくなんてできるわけないじゃない!」 母の怒鳴る声が震えていた。 「とにかく今日はもう帰って。今はあんたと話したくないわ」 母の項垂れた姿を見ていたたまれなくなり、家を出た。 離れたくない、なんて女々しいのは自分でもわかってる。涼太の方がよっぽど男らしい。 自分が惨めに思えてくる。 俺は涼太の事になると、自分をコントロールする事さえできない。 アパートに帰ると、早番だった涼太は既に帰って来ていて、ソファにもたれてうたた寝していた。 ここの所、毎日のように俺が求めているせいで疲れているのか、涼太の白い肌が更に青白く見える。クマもひどい。少し痩せた気もする。 このままだと涼太を壊してしまいそうだ。 大事に囲っておきたいのに、酷くしてしまう。 なぜ、涼太への気持ちを止めることができないんだろう。 「いっそ俺の手で壊せたらどんなにいいか・・・涼太、ごめんな」 眠る涼太の髪を撫で、ぎゅっと抱きしめた。

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