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第140話 もう一度 1
青に手を引かれて、空港を出てタクシーに乗る。
オレは、何も話せずにただ黙って自分の膝の上で組んだ両手を見つめていた。
青も何も話さなかった。
なんで空港に来たんだとか、なんで抱きしめたのかとか、なんで別れたのに、とか・・・
聞きたいことはいくつもある。
だけど、一言零れてしまうと、とめどなく気持ちが溢れてくる気がして、口を開けなかった。
久しぶりにタクシーに乗って、しばらく無言で下を見つめていたせいか、だんだん気分が悪くなってくる。
・・・やば。車酔い・・・。
慌てて窓の外に視線を移す。
・・・つーか、どこに向かってんだ?アパートの方向じゃなさそうだ。
「涼太、気分悪い?酔った?」
・・・なんで気付くんだよ。
「イヤ。大丈夫」
青の方を見ずに答える。
「もう少しで着くから」
・・・どこに?全然見当もつかない。
あ、でもここら辺、本社の近くだな・・・。
タクシーが停まったのは、オレが明後日から出勤する本社にほど近い場所に建っているマンションの前だった。
青がタクシーからオレの荷物を降ろし、マンションの中へ入っていく。オレもその後に続いてエレベーターにのる。
「どこ行くんだよ?」
「俺んちに決まってんだろ」
え!?青んち!?ここが!?こんなん大学生が住んでいいとこじゃねーだろ!
「涼太、俺がまだ学生だと思ってんの?」
呆れた声で青が言う。
そっか・・・。あれから二年経ってるんだった。もう青も社会人だよな。
エレベーターが八階で止まり「青んち」と思われる部屋に招かれる。
部屋に入ると、一人暮らしにしては広いリビングに通される。
リビングの壁にはドアが二つ。廊下にあった二つのドアがトイレとバスルームだとすると、ここにあるドアは二つとも寝室・・・?
誰かと一緒に住んでるって事?
・・・そうだよな。想定してなかったわけじゃない。でも、目の当たりにすると結構キツイな。
「座れよ」
青が先に座ったソファの隣に座るよう促され、オレは浅く腰掛けた。
「涼太、触っていい?」
・・・は?
「ダメに決まってんだろ!ふざけてんのか!」
一緒に住んでる誰かがいるんだろ!何考えてんだよ!
「もしまたいつか離れることがあっても」
「・・・は?」
なに?
「俺は涼太を手放したりしない」
・・・あ。それって・・・
いつか、青が別れると言って部屋を出て行ってまた戻ってきた時の事を思い出す。
「忘れてたのかよ」
青が、はあ、と溜息を吐く。
「俺は、涼太を突き放した。だけど手放したつもりなんかない」
え・・・?どういう事?
ちょっと待て。なに?
耳を疑うような青の言葉に、頭の中が整理できない。
「え・・・でも、オレ達終わりって・・・」
「俺は言ってねぇ。お前が勝手に言っただけだろ」
そうだっけ・・・?
「だって二年、なんの連絡も・・・」
「涼太の顔見たり声聞いたりしたら、また暴走しかねなかったからな。死ぬほど我慢した。まあ、そのおかげで勉強に打ち込めたし、医者になれたしな。まだ研修医だけど」
え、医者?青、医者になったのかよ!
・・・そーいやオレ、青が大学行ってんのは知ってたけど、学部もなんにも知らなかった。
じゃあ、青がやりたかった事って・・・
「青、医者になりたかったんだ・・・」
「そうだよ。涼太の親父と同じ土俵に立てなきゃ、おまえの事もらいに行けねぇだろ」
・・・青、おまえどんだけ前からオレと一緒になろうって考えてたんだよ。こわいわ!
オレが青を好きになんなかったらどうするつもりだったんだよ。
頭良いくせに、考えてることは、ほんっとバカみたいな事ばっかじゃん。
「なあ、もう触っていい?」
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