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第153話 ご乱心 3
気を失ったまま寝息を立て始める涼太をベッドに運んで、濡れた床とソファを拭く。
ソファが防水でよかった~。
ったく、どんだけ出してんだよ、あいつ。
女抱きたいって言ってたやつが、こんなんなっちゃって・・・
涼太の寝顔を見ると、涙でメイクが落ちてグチャグチャになって、ウィッグもバサバサで、ハッキリ言って汚い。
でも、世界一可愛いと思ってしまう。
本当に涼太が女だったら、なんの問題もなく結婚できたのに。
そうできれば、一生涼太と繋がっていられるのに。
だけど、現実的に考えて、それは叶えられない。
いつか誰かに涼太を奪われても、俺は文句も言えない立場って事だ。
今まで以上に、逃がさないようにしとかないとな。
俺は眠る涼太の首筋を強く吸い上げた。
「涼太おはよ、昨日無事帰れたか?」
「おはようございます。はい。靴ズレできちゃいましたけど」
「ふーん・・・」
会社の前で雄大さんと挨拶を交わして一緒に出勤する。
自分のデスクの上に紙袋が置かれていて、中を確認すると、昨日着ていた私服とスマホが入っていた。
「よかった~!ちゃんとあったんだ」
「小林さん、すみませんでした!」
広報部の女の子が駆け寄って来て、頭を下げる。
「私、確認もせずにシンハン下げちゃって・・・小林さんの私物だって気付いたの今朝だったんです!本当に申し訳ございませんでした!」
「大丈夫ですよ。あのまま帰ったんで。気にしないでください」
「本当にすみません。・・・あの、着ていかれた服は・・・」
は!やべぇ・・・オレと青ので、ぐっちょぐちょにしちゃったんだった・・・
「あ、アレ、帰り道でドブに頭から突っ込んで汚しちゃったんで、全部買い取ります!請求書、出してもらっていいですか?ウィッグの分も!」
咄嗟に嘘をついてしまう。
「ええ!?大丈夫ですか!?じゃあ、後で服の分、請求出しときますね。ウィッグは備品なんで、廃棄で大丈夫ですよ」
ふう。なんとかごまかせた。
「お前ん家すぐそこなのに、近くにドブなんか無いだろ」
ギク・・・
雄大さんに突っ込まれて、何も言えなくなる。
「どこから出た汚水に塗れたんだろうな~?なあ、涼太?」
雄大さんが横目でオレをじっと見てくる。
「何が言いたいんすか?」
「昨日の帰り、見ちゃったんだけど。男と手繋いでんの」
・・・嘘だろ、最悪じゃん。
「ああああれはですね、オレの女装姿をからかってですね、同居人がふざけてただけです!」
「ふーん」
・・・セーフ?
「ふざけただけの割には盛り上がってたみたいだけど?首にキスマークついてんぞ」
「ええ!?」
マジかよ~!アウトじゃん!
「なーんか、妬けるな。好きな人取られた気分だ」
「アホな事言わないでくださいよ。雄大さんの好きな人は女でしょ。オレは男です」
オレは雄大さんの好きな人と似てるだけだ。とっくにフラグは折れたんだから立て直すなよな。
「雄大さんの好きな人って同じ会社なんですか?」
とにかく話題を変えたい。
「いや。そこの大学病院の医者。女医さんだぞ、カッコイイだろ」
「へぇ~。なんか意外ですね。どうやって知り合ったんですか?」
「まだ知り合ってないよ。俺が一目惚れしただけで、話したこともない。名前も知らないし」
「そこの大学病院なら、オレの姉も医者やってますよ。聞いてみましょうか?」
「マジか!今、写真送るわ!」
食い付きハンパねぇ。つーか、知り合ってもない女を撮ってるってどうなんだ?
すぐにスマホに雄大さんからの写真が送られてくる。開いてみると、なんか、見慣れた顔が・・・
「・・・雄大さん・・・、オレのねーちゃんです・・・」
マジかよ・・・余計な事言っちゃったよ・・・
みおり、自分より収入無い男なんか相手にしないクソ女だし、絶対雄大さんに見込みねぇよ。
ああ、雄大さんのウキウキ顔がツラい・・・
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