152 / 210

第153話 ご乱心 3

気を失ったまま寝息を立て始める涼太をベッドに運んで、濡れた床とソファを拭く。 ソファが防水でよかった~。 ったく、どんだけ出してんだよ、あいつ。 女抱きたいって言ってたやつが、こんなんなっちゃって・・・ 涼太の寝顔を見ると、涙でメイクが落ちてグチャグチャになって、ウィッグもバサバサで、ハッキリ言って汚い。 でも、世界一可愛いと思ってしまう。 本当に涼太が女だったら、なんの問題もなく結婚できたのに。 そうできれば、一生涼太と繋がっていられるのに。 だけど、現実的に考えて、それは叶えられない。 いつか誰かに涼太を奪われても、俺は文句も言えない立場って事だ。 今まで以上に、逃がさないようにしとかないとな。 俺は眠る涼太の首筋を強く吸い上げた。 「涼太おはよ、昨日無事帰れたか?」 「おはようございます。はい。靴ズレできちゃいましたけど」 「ふーん・・・」 会社の前で雄大さんと挨拶を交わして一緒に出勤する。 自分のデスクの上に紙袋が置かれていて、中を確認すると、昨日着ていた私服とスマホが入っていた。 「よかった~!ちゃんとあったんだ」 「小林さん、すみませんでした!」 広報部の女の子が駆け寄って来て、頭を下げる。 「私、確認もせずにシンハン下げちゃって・・・小林さんの私物だって気付いたの今朝だったんです!本当に申し訳ございませんでした!」 「大丈夫ですよ。あのまま帰ったんで。気にしないでください」 「本当にすみません。・・・あの、着ていかれた服は・・・」 は!やべぇ・・・オレと青ので、ぐっちょぐちょにしちゃったんだった・・・ 「あ、アレ、帰り道でドブに頭から突っ込んで汚しちゃったんで、全部買い取ります!請求書、出してもらっていいですか?ウィッグの分も!」 咄嗟に嘘をついてしまう。 「ええ!?大丈夫ですか!?じゃあ、後で服の分、請求出しときますね。ウィッグは備品なんで、廃棄で大丈夫ですよ」 ふう。なんとかごまかせた。 「お前ん家すぐそこなのに、近くにドブなんか無いだろ」 ギク・・・ 雄大さんに突っ込まれて、何も言えなくなる。 「どこから出た汚水に塗れたんだろうな~?なあ、涼太?」 雄大さんが横目でオレをじっと見てくる。 「何が言いたいんすか?」 「昨日の帰り、見ちゃったんだけど。男と手繋いでんの」 ・・・嘘だろ、最悪じゃん。 「ああああれはですね、オレの女装姿をからかってですね、同居人がふざけてただけです!」 「ふーん」 ・・・セーフ? 「ふざけただけの割には盛り上がってたみたいだけど?首にキスマークついてんぞ」 「ええ!?」 マジかよ~!アウトじゃん! 「なーんか、妬けるな。好きな人取られた気分だ」 「アホな事言わないでくださいよ。雄大さんの好きな人は女でしょ。オレは男です」 オレは雄大さんの好きな人と似てるだけだ。とっくにフラグは折れたんだから立て直すなよな。 「雄大さんの好きな人って同じ会社なんですか?」 とにかく話題を変えたい。 「いや。そこの大学病院の医者。女医さんだぞ、カッコイイだろ」 「へぇ~。なんか意外ですね。どうやって知り合ったんですか?」 「まだ知り合ってないよ。俺が一目惚れしただけで、話したこともない。名前も知らないし」 「そこの大学病院なら、オレの姉も医者やってますよ。聞いてみましょうか?」 「マジか!今、写真送るわ!」 食い付きハンパねぇ。つーか、知り合ってもない女を撮ってるってどうなんだ? すぐにスマホに雄大さんからの写真が送られてくる。開いてみると、なんか、見慣れた顔が・・・ 「・・・雄大さん・・・、オレのねーちゃんです・・・」 マジかよ・・・余計な事言っちゃったよ・・・ みおり、自分より収入無い男なんか相手にしないクソ女だし、絶対雄大さんに見込みねぇよ。 ああ、雄大さんのウキウキ顔がツラい・・・

ともだちにシェアしよう!