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第154話 一度だけのデート 1

雄大さんとなんとか会ってもらえないかと美織に頼み込んでみたが、婚約者がいるから、と断られてしまった。 姉は30歳。婚約者がいてもおかしくはない。 しかも、相手は開業医。一年後には入籍するらしい。 「はあぁぁぁぁぁ。どうしよ・・・」 雄大さんに正直に言うしかないよな。 期待しまくっている雄大さんのウキウキ顔を思い出すと、言いづらい・・・。胸が痛い・・・。 でも言わなきゃな・・・。 企画会議の後に、会社のテラスの喫煙所にいる雄大さんに話しかける。 「あのー、雄大さん」 「どした?お姉さん、会ってくれるのか?」 う・・・。 「それがですね・・・。どうも婚約者がいるみたいで・・・」 「マジかよ・・・。あの人、結婚すんの・・・?」 「はい。姉もいつまでも大学病院にいるつもりはないみたいで・・・開業医と・・・」 あからさまにガックリと肩を落として、灰皿に煙草を落とす雄大さん。 「・・・一回、一回会うだけでも無理かな・・・?ほんと頼むから・・・。人生で初めての一目惚れだったんだよ!なあ、涼太!お願い!」 半泣きの雄大さんに肩を掴まれて、激しく揺さぶられる。 「・・・わかりました。言い出したオレにも責任はあります。なんとかします」 「涼太ぁ~!ありがとな!頼んだぞ!」 ぎゅうううっと雄大さんが嬉しそうに抱きついてくる。 なんとかしねぇと・・・。 帰宅して、美織に電話してみたが、案の定バッサリ断られてしまった。 やっべぇな~・・・。 ガチャ 玄関のドアが開く音がして、青がリビングに入ってくる。 「おかえり」 「ただいま。疲れた。涼太、ぎゅってして」 めんどくせ・・・。でも、しないともっとめんどくさい事になるしな・・・。 ソファに座った青を、立ったまま正面から抱きしめる。青が上を向いて、俯いたオレにキスしてきて、その瞬間、微かに消毒液のにおいがした。 幼い頃、祖父の務める病院へ行くと、いつも消毒液のにおいがしていて、オレは、このにおいが好きだった。いつか自分も父や祖父の様に医者になるんだと漠然と思っていた。 ・・・でも勉強が大嫌いで、バカだったし、自分には向いてないと思った。 「青が医者になってくれて、めっちゃ嬉しい。ありがとな」 このにおい、めっちゃ癒される~! 「なに?なんかあった?涼太が素直だと心配になる」 なんでオレが素直だと心配なんだ!たいてい素直だろ!人をツンキャラにすんな! ・・・でも、やっぱ青は鋭いな。 「実は・・・」 オレは、青に雄大さんのことを話した。 「あー。それは気の毒に。でも、安請け合いする涼太も悪いだろ」 「だよな。どうしよう」 「どうしよう、っつってもな~・・・つーか腹減ったな」 そういえば、夕飯作んの忘れてた。 「簡単なもんでいい?」 「涼太が作るならなんでもいい」 とりあえず冷蔵庫を見て、時間のかからないオムライスと野菜スープを作る。 「青、明日ゴミの日じゃん。今のうちにまとめとけよ」 「はいはいー」 自分の寝室に入って行った青が、すぐに戻ってくる。 「コレ、汚れてないけど捨てていいやつ?」 青が手にしていたのは、女装した時に履いていたチェックのスカートだった。汚れたものはすぐに捨てたけど、最初に脱いだスカートだけ汚れてなかったから・・・。 「女装・・・。あ!それだ!」 「・・・涼太、まさか、美織さんのフリすんのか・・・?」 「青のおかげで閃いたわ!さんきゅー!」 あったまいいじゃん、オレ! 「なあ、嫌な予感すんだけど」 「大丈夫!美織のクソな性格は把握してっから!絶対なりきれる自信あるわ!」 青の心配をよそに、オレは自分の策を自画自賛するばかりだった。

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