154 / 210

第155話 一度だけのデート 2

「小林くん、私、オトコの娘は萌えないんだけど」 「すみません」 オレは今、雄大さんとのデート(?)のために、あさみさんにメイクをしてもらっているところ。 「頼める人があさみさんしかいなかったんで」 「まあいいわ。そのかわり、わかってるわよね?」 「・・・ハイ」 うう・・・。次はなんのミッションだろ・・・。こえぇ。 「色々シチュは考えてるけど・・・後で青くんにメールしとくから」 「・・・ハイ」 今回は大人しく従わないとな。しょうがねー・・・。 「できたわよ。どっからどうみても、お姉さんそっくり!さすが私!」 雄大さんが隠し撮りした美織の写真とオレを見比べて、ドヤ顔のあさみさん。 黒髪ストレートロングのウィッグに薄めのメイク、シンプルな白の膝丈のワンピースにグレーの薄手のコートとショートブーツ。 どっからどう見ても、美織以外に見えねぇ!気持ち悪っ! 「声は、ごまかせないわね・・・。風邪ひいてるって事にしてマスクしていった方がいいわ」 あさみさんのアドバイスでコンビニでマスクを買って、雄大さんと待ち合わせているホテルのラウンジへ向かった。 店へ入ると、雄大さんが窓際の席に座っているのが見えた。 雄大さんがオレの方を見たけど、美織は雄大さんと面識が無いから、知らないふりしねーと・・・。 「いらっしゃいませ。ご予約でしょうか?」 「あ、はい。佐々木です」 「かしこまりました。お連れ様、お待ちです。ご案内致します」 席に案内されて、雄大さんに軽く頭を下げる。 「は、初めまして!涼太くんと一緒に仕事させて頂いております、佐々木です!」 ひゃ~、いつも余裕ぶっこいてる雄大さんがガッチガチじゃん!・・・ダメだ、ウケる。 イヤイヤ、笑っちゃダメだろ! 「涼太がいつもお世話になっております。姉の美織です。・・・風邪気味なので、マスクしていても・・・?」 「はい!もちろんです!どうぞ!」 雄大さんのエスコートで席に座る。 やめろ~!そんな男前な事して笑わすな~!既に腹筋が痛いんですけど! 「あの、すみません。無理に誘ってしまって。でも、美織さんがご結婚されると聞いて、どうしても一度だけ会って頂きたくて、涼太くんに無理を言ってしまいました」 涼太、くん!ぶっ!雄大さんが「くん」とか! あー、ダメだ。笑える。マスクしててよかった~。 「でも、本当にそっくりですね。目なんて涼太そのものですね。こんなに似てるのに、なんで俺、涼太のお姉さんだって気付かなかったんだろう」 イヤイヤ、今目の前にいるのは涼太そのものですよー!マジで笑わすなって! 「会社の健康診断で病院へ行った時に、美織さんを見かけました。透明感があって姿勢が良くてひとつに纏めた髪が綺麗で、白衣がすごく似合っていて。・・・一目惚れです」 真剣に話す雄大さんに、笑っちゃいけない気分になってくる。 「あ!でも、婚約者がいる美織さんとどうにかなりたいなんて、思ってないですから!本当は少しだけ思ってますけど・・・。会えてこうして話せただけですごく嬉しいです!ありがとうございます!」 「・・・いえ」 雄大さん、美織の事本当に好きなんだな・・・。 美織が雄大さんの気持ちを知ることは無いです。すみません。 オレ・・・、こんな事して、間違ってねぇのかな・・・? 「で、今日はどこまでお付き合い頂けるんですか?涼子さん?」 「あまり時間が無くて、あと少しだけ・・・」 ・・・え?・・・雄大さん、今なんて呼んだ? 「風邪なんてひいてないですよね?涼子さんは。マスク取ったらどうです?」 りょうこさん・・・。やっべ・・・。オレだってバレてる・・・。 「いつ、気付いたんです、か?」 マスクを外しながら雄大さんに尋ねる。 「うーん。椅子を引いた時かな?座り方が不自然だった。いい年齢の美人女医なのに、エスコートされなれてないなんて、おかしいだろ?」 そんなとこ見てんのかよ・・・。 「で、俺を騙すなんて生意気な事してくれちゃって。とことん付き合ってくれるんだよな?涼子ちゃん?」 「え・・・イヤ・・・あの、すみません・・・」 雄大さんの余裕の笑顔が・・・コワイ!

ともだちにシェアしよう!