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第156話 一度だけのデート 3
雄大さんは、テーブルに肘をついて、小馬鹿にしたようなニヤケ顔でオレを見る。
「う・・・ど、どこまでお付き合いしたら・・・いいんでしょう?」
怒ってる・・・。笑顔だけど、絶対怒ってるよ、コレ!なんとか許してもらわねーと!
「逆に、涼太はどこまで付き合ってくれんの?この茶番に」
え・・・。
「えっと・・・、一緒にゴハン食べる・・・とかですかね」
「そんなん、いつもやってんじゃん」
あ、そうか・・・。じゃあ・・・
「あ!あの観覧車乗ってみます?」
オレは、窓から見えるライトアップされた大きな輪っかを指差す。
「ぷっ!おまえ、意外とオトメなんだな。そんなんで大人が喜ぶと思ってんのかよ」
ぐ・・・。バカにされてる。クソ・・・。
「まあいいや。じゃあ行くぞ」
観覧車の真下まで歩いてきて、雄大さんが見上げて不安そうに呟く。
「近くで見ると、けっこうデカイな」
「雄大さん、もしかして高いの苦手なんですか?」
「・・・ちょっとだけな」
「へ~。大丈夫ですよ、オレがついてます!」
雄大さんの弱点を見つけて、なんだかテンションが上がる。
「乗るぞ。ホラ」
雄大さんが先に乗り込んで、中から手を引いてくれる。
「さっきも思ったんすけど、雄大さんてサラッとこういう事できちゃうんですね。女慣れしてるって感じでカッコイイですね」
オレには到底真似できない。
「おい、美織さんのカッコで褒めんなよ。勘違いして調子のるだろ」
あ、そう言えば、今オレ見た目美織なんだった。・・・雄大さんに、謝んないとな。
「すみません。騙すような事して」
「いいよ。どうせ会ってもらえるなんて思ってなかったしな。俺が無理言ったから断れなかったんだろ、お前」
「・・・はい。すみません」
「もういいよ。視覚的には満たされてるから。悪かったな。そんなカッコさせて」
やっぱ、雄大さんは大人だな。オレが雄大さんの立場だったら、腹が立つと思う。
「け、結構・・・上まできたな。手震えてきた・・・」
頂上付近まで来て、雄大さんの表情が強張っている。
・・・なんかウケるな。ダメダメ。笑ったら悪い・・・。
「あ、てめー、笑いこらえてんだろ。クッソ」
向かいに座っていた雄大さんが、オレの隣に移動してきて、ぎゅうっとしがみつくように横から抱きついてくる。
「あ、これならちょっとマシだわ。落ち着く」
さっきまで大人だな、と思っていた雄大さんが急に子供みたいに思えてくる。
「なでなでしましょうか?」
オレは笑いを押し殺して、雄大さんをからかう。
「マジで生意気。大人は撫でられるよりこっちの方が喜ぶんだよ」
雄大さんの顔が迫って、唇が触れ合った。
・・・は?
「なんて顔してんだよ。ははっ、笑える」
驚きで目を見開いて雄大さんを見るオレの顔を見返して、雄大さんは腹を抱えている。
「なななな、何してんすか!」
「はー、ウケたわ。先輩をバカにした罰だよ」
「だからって男にキスしないでくださいよ!」
青にバレたら、大変な事になるんだからな!
「その男に、お前の同居人は欲情してないのか?」
そ、それを言われると・・・。
「お前はどうなんだよ?男に抱かれてんだろ?」
雄大さんにそう言われて、言い返せなくなる。
観覧車が一周を終えようとしていて、オレ達は地上に近付いていた。
「なんか、あそこにいるやつ、めっちゃこっち見てんな」
沈黙の中、外を見ている雄大さんが口を開く。
気になってちらっと外を見下ろしてみると
「げ!青・・・!なんで・・・」
観覧車のすぐ近くのベンチに座って、青がこっちを見ていた。
なんでいるんだよ!・・・あれか、例のGPSか!まさか、キスされたの見てた!?イヤ、てっぺん付近は下から見えないはず!
「あれが同居人か」
慌てて窓に張り付くオレの様子を見て雄大さんが呟く。
「涼太」
呼ばれて雄大さんの方を向く。
「う!」
目が合った瞬間に、頭を引き寄せられて、もう一度唇が重なった。
「・・・っ!や、めてください!」
雄大さんを振り払うと同時に観覧車のドアが開いて、青の座っているベンチまで、雄大さんに手を引かれて連れて行かれる。
ヤバイヤバイヤバイヤバイ!青の顔が、目が~!
雄大さん、何考えてるんだよ!
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