156 / 210

第157話 大人の余裕 1

ーー涼太があさみと別れ、雄大との待ち合わせ場所へ向かっていた頃。 あさみさんからのメッセージ?なんだろ・・・。 『小林くん、ALAホテルのラウンジで佐々木とデート。阻止するべし。佐々木はドスケベ!私も後で行くから連絡して!絶対に!』 メッセージと一緒に、美織さんに扮した涼太の画像が送られてくる。 はあ!? あいつ、マジで女装して乗り切るつもりかよ!マジでバカか! 仕事終わりで疲れてイライラしてるとこに、余計なストレスかけんじゃねぇよ! すぐに涼太の居場所を追跡アプリで確認する。 初対面がホテルのラウンジ!?下心丸出しじゃねーか!美織さん本人だったら絶対行かねーぞ! 涼太・・・隙ありすぎだろ! ここなら車より電車の方が早いな。 病院に車を置いて近くの駅へ向かう。 電車で二駅。ホテルの最寄り駅で降りて涼太の居場所を確認すると、GPSが指す場所はホテルではなかった。 ・・・あそこに見えてる観覧車の近くか! とりあえずあさみさんにマップを送信する。 観覧車があるショッピングモールまで走って向かうと いた!美織さん!・・・じゃなくて涼太! 長身の男が涼太の手を引いて、二人は観覧車に乗り込んで行った。 すぐに涼太に電話するが、・・・出ない。 「くっそ、なんで出ねんだよ!」 一周するのを待つしかない。 俺は観覧車のすぐ近くのベンチから、涼太達が乗ったボックスを目で追う。 ライトアップされているために、中の様子が見えづらい。 10分後、ようやく下降してきたボックスの中から佐々木とやらが外を見ている姿が見えた。 その後しばらくして、黒髪の涼太が窓に両手をついてこっちを見下ろしている姿が見えた。 無事そう・・・だな。よかっ・・・ そう思った瞬間、頭を引き寄せられて佐々木にキスされる涼太。 ドクン、と心臓が嫌な音をたてて、全身から血の気が引いて、一瞬、呼吸をするのも忘れてしまう。 涼太が男に言い寄られてるのは初めてじゃない。宮野に拘束されたり、タケルに手を握られていた事もあった。 だけど・・・目の前で、明らかに奪われているのを見るのは、初めてだった。 涼太が、俺以外の男に・・・ 頭が真っ白になって、観覧車から降りて俺の方へと向かってくる二人を直視できず、視界の端だけでとらえる事しかできない。 俺、こんな小心者だったか・・・? 「涼太の同居人だよね?」 目の前まで来た佐々木に声を掛けられる。 顔を上げると、美織さんにそっくりな、涼太の焦った顔があった。 「君が涼太に惚れてる気持ちがわかるよ。思わず奪いたくなっちゃった。ごめんな」 「雄大さん!マジでふざけんのやめてくださいよ!」 涼太を無視して佐々木が俺の横に腰を下ろした。 「青くんだっけ?いいよね、涼太。カワイイし、少し生意気なところも、俺気に入ってんだよね」 ・・・何が言いたいんだよ。 「もし、持て余してんだったらいつでも貰ってあげるよ?」 ニコッと俺に笑顔を向ける佐々木に怒りが込み上げて、胸ぐらを掴もうとしたその時 ビュッ 涼太の蹴り出した左足が佐々木の顔の横でピタッと止まる。 「それ以上、青になんか言ったら、次は雄大さんの首、折ります」 え・・・。 涼太、マジでキレてる・・・。もしかして、俺の為に? 予想外の涼太の行動に佐々木も俺もビックリしすぎて、動けない。 「涼太、悪い。調子乗りすぎた。とりあえず、パンツ見えてるから足下ろせ」 佐々木に言われて、涼太は無言でスっと足を下ろした。 「さ~さ~き~!許さん!」 遠くから叫びながら走ってくるあさみさん。なんか怖い・・・。 「はぁっ、はぁっ、青くん!間に合った!?」 「イヤ・・・」 涼太の唇奪われちゃいました・・・。やべえ、思い出したら、落ち込んでくる・・・。 「佐々木!小林くんに手出すなって言ったでしょ!国宝級カプに割り込む資格、あんたに無いのよ!行くわよ!」 あさみさんの剣幕に圧倒されて、佐々木がズルズルと引き摺られて行き、二人は去っていった。 なんだったんだ・・・。 「青。・・・見てた・・・?」 ついさっき、あんなに殺気を放っていた涼太は、今はバツが悪そうに俺の機嫌を伺っている。 マジ、なんなんだよ、そのギャップは・・・クソかわ・・・。 「ちょっと付き合え」 涼太に言われるままチケットを買って、俺達は観覧車に乗り込んだ。

ともだちにシェアしよう!