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第158話 大人の余裕 2
観覧車の中、向かい合った席に座った涼太の顔が見れない。
さっきの、佐々木にキスされていた涼太が頭から離れない。自分がこんなに女々しいと思い知らされるなんて。
救いなのは、美織さんの姿で脳裏に焼き付いている事だ。
もし、普段のありのままの涼太だったら、俺、ショック死するかもしんねぇ。
「なあ、怒ってる?オレがバカだって呆れてんだろ?」
怒ってる?呆れてる?そんな感情じゃない。
大事なものが目の前で壊されたような、喪失感。
「こっち見ろよ!」
何も答えない俺の膝に跨った涼太に、両手で無理矢理顔を上に向かされる。
「オレがバカだから、もう目も合わしてくんねーの?」
そうじゃない。・・・けど。
「・・・嫌いに、なった・・・?」
「なるわけねぇだろ!」
「やっとこっち見た」
あ・・・。
「もう、嫌になった?オレの事。・・・雄大さんの言う通り、持て余してる?」
明らかに落ち込んで、涼太が瞳を揺らす。
その仕草も表情も、外の電飾に照らされてすごく綺麗で、目が離せなくなった。
女装しているせいもあるけど、女にしか見えなくて、涼太の美しさに改めて気付かされる。
佐々木が、欲しくなるハズだよな。佐々木だけじゃない。今までも、きっとこれからも、涼太はそういう運命なんだと思う。
俺は、そんなヤツを自分だけのものだって思ってたのか。
「青、消毒は?」
「は?消毒・・・?」
こんなとこで何を消毒するんだよ。
「肝心なとこでニブイよな、おまえ」
涼太がグッと唇を重ねてくる。
「こういう消毒だろ!わかれよ!鈍感!」
「・・・っ」
涼太の唇がもう一度重なって、俺の上唇を小さな舌がぎこちなく這い、続けて下唇を啄まれて、ゾクリと心臓が音を立てた。
・・・なんか涼太、すげー色気増してるな。
「青、口開けろよ」
言われるまま軽く口を開くと、涼太の舌が咥内に滑りこんで、お互いの舌先が触れ合う。
「ぁ、・・・っ」
舌が絡まるのと同時に、涼太から微かな吐息が漏れた。
自分からしてきたくせに、なんでそんな声出してんだよ・・・。
堪らなくなって、膝に乗る涼太の腰を引き寄せて、俺のなかにある舌を強く吸った。
「は、・・・あぁ、あ・・・やっ」
涼太の吐息が確実な音に変わって、逃げる様に唇が離れる。
「消毒、してほしいんだろ?もういらねえの?」
「・・・いる」
「なら逃げんな。ちゃんと隅々まで舐め取ってやるから」
「・・・うん」
顔が真っ赤になって、涼太が俯く。
なんなんだよ。マジで。自分から誘っといてその反応って。
今度は俺から深く口付ける。涼太の表情が艶っぽさを増して、俺は誘われるようにスカートの裾から手を入れて、涼太の内腿を撫でる。
「青!待った!」
「なんだよ。誘ったのはお前だろ」
「もうすぐ、一周、終わるから!」
外を見ると俺達をのせたボックスは地上付近まで降りてきていた。
あー、もうなんだよ!せっかく盛り上がってきたのに!
観覧車を降りてトボトボ歩く俺の手を、ぎゅっと握ってきて足早に歩く涼太。
「なあ、早く帰ろ?」
振り返って俺を見上げる涼太が堪らなく愛おしく思えた。
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