157 / 210

第158話 大人の余裕 2

観覧車の中、向かい合った席に座った涼太の顔が見れない。 さっきの、佐々木にキスされていた涼太が頭から離れない。自分がこんなに女々しいと思い知らされるなんて。 救いなのは、美織さんの姿で脳裏に焼き付いている事だ。 もし、普段のありのままの涼太だったら、俺、ショック死するかもしんねぇ。 「なあ、怒ってる?オレがバカだって呆れてんだろ?」 怒ってる?呆れてる?そんな感情じゃない。 大事なものが目の前で壊されたような、喪失感。 「こっち見ろよ!」 何も答えない俺の膝に跨った涼太に、両手で無理矢理顔を上に向かされる。 「オレがバカだから、もう目も合わしてくんねーの?」 そうじゃない。・・・けど。 「・・・嫌いに、なった・・・?」 「なるわけねぇだろ!」 「やっとこっち見た」 あ・・・。 「もう、嫌になった?オレの事。・・・雄大さんの言う通り、持て余してる?」 明らかに落ち込んで、涼太が瞳を揺らす。 その仕草も表情も、外の電飾に照らされてすごく綺麗で、目が離せなくなった。 女装しているせいもあるけど、女にしか見えなくて、涼太の美しさに改めて気付かされる。 佐々木が、欲しくなるハズだよな。佐々木だけじゃない。今までも、きっとこれからも、涼太はそういう運命なんだと思う。 俺は、そんなヤツを自分だけのものだって思ってたのか。 「青、消毒は?」 「は?消毒・・・?」 こんなとこで何を消毒するんだよ。 「肝心なとこでニブイよな、おまえ」 涼太がグッと唇を重ねてくる。 「こういう消毒だろ!わかれよ!鈍感!」 「・・・っ」 涼太の唇がもう一度重なって、俺の上唇を小さな舌がぎこちなく這い、続けて下唇を啄まれて、ゾクリと心臓が音を立てた。 ・・・なんか涼太、すげー色気増してるな。 「青、口開けろよ」 言われるまま軽く口を開くと、涼太の舌が咥内に滑りこんで、お互いの舌先が触れ合う。 「ぁ、・・・っ」 舌が絡まるのと同時に、涼太から微かな吐息が漏れた。 自分からしてきたくせに、なんでそんな声出してんだよ・・・。 堪らなくなって、膝に乗る涼太の腰を引き寄せて、俺のなかにある舌を強く吸った。 「は、・・・あぁ、あ・・・やっ」 涼太の吐息が確実な音に変わって、逃げる様に唇が離れる。 「消毒、してほしいんだろ?もういらねえの?」 「・・・いる」 「なら逃げんな。ちゃんと隅々まで舐め取ってやるから」 「・・・うん」 顔が真っ赤になって、涼太が俯く。 なんなんだよ。マジで。自分から誘っといてその反応って。 今度は俺から深く口付ける。涼太の表情が艶っぽさを増して、俺は誘われるようにスカートの裾から手を入れて、涼太の内腿を撫でる。 「青!待った!」 「なんだよ。誘ったのはお前だろ」 「もうすぐ、一周、終わるから!」 外を見ると俺達をのせたボックスは地上付近まで降りてきていた。 あー、もうなんだよ!せっかく盛り上がってきたのに! 観覧車を降りてトボトボ歩く俺の手を、ぎゅっと握ってきて足早に歩く涼太。 「なあ、早く帰ろ?」 振り返って俺を見上げる涼太が堪らなく愛おしく思えた。

ともだちにシェアしよう!