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第159話 大人の余裕 3

「外のライトが邪魔ね・・・」 「・・・なあ、俺たち何やってんの?」 ーー観覧車が一望できるショッピングモール内で、双眼鏡を構えるあさみと、望遠レンズ装備のカメラを構える雄大。 「うるさい。ちゃんと撮れたの?」 「一応」 ーー雄大からカメラをもぎ取り、あさみが確認する。 「まあまあね。でもやっぱり、オトコの娘じゃ萌えないわ。せっかくの誘い受なのに・・・。今日は不発ね」 「おまえ、盗撮は犯罪だぞ」 「失礼ね!ちゃんと本人から許可もらってるわよ」 ーー涼太と青が観覧車から降りたのを確認して、あさみは双眼鏡とカメラをバッグにしまう。 「同居人に知らせたの、おまえか?」 「そうよ。私が小林くんのメイクしたんだから!騙されたでしょ?」 「・・・まあな。つーか、騙すつもりなら邪魔しに来るなよ」 「青くんは嫉妬深いから、なんか面白いことにならないかと期待したんだけど・・・ダメだわ。今の女装した小林くんじゃ萌えない・・・」 ーーあさみはがっくりと肩を落とす。 「俺はかなり萌えたけどな。いっそ本物の女になって欲しいくらいだよ」 「ちょっと佐々木。あんたはただの当て馬的存在でしょ。立場をわきまえなさいよ」 「当て馬、ねぇ」 「小林くんは青くんじゃないとダメなの!もちろん男としてね!」 「当て馬が本気出したらどうなんのかね?」 「本命は決まってるの!勝てるわけないわ」 「そーかな?あの本命くん、涼太に入れこみすぎて、周り見えてなさそうだけどな」 ーー涼太に手を引かれて歩く青をガラス越しに見下ろす雄大。 「そこがあのふたりのいい所なのよ!そういう所が萌えポイントなの!」 「・・・なるほどね」 ーー鼻息を荒くするあさみを、呆れた表情で雄大が見る。 「にしても、涼太がキレてるとこ初めて見たな」 「あんた何やらかしたのよ。まさか、この短時間で手出したんじゃないでしょうね?」 「はは。あんなん手出したうちに入らねーよ」 「信じらんない!触るなって言ったでしょ!小林くんが汚れるわ!」 あんなキス、子供じゃないんだからどうってことないだろ。 それよりも、涼太の目が鋭くなった時、最高にかわいかったな。 それに、涼太を連れて歩いた時の周囲のヤツらからの羨望の眼差し。優越感が半端なかった。 あれだけ綺麗なら注目されて当然か。 「涼太のせいで俺、バイになっちゃいそうだわ」 「どーぞご自由に。どうせ散々女と遊んできて飽きちゃってるんでしょ?言っとくけど、私、あんたじゃ萌えないから、あの二人に関係無いところでやってよね」 「冷たいな~。相変わらず。俺がどんだけ誘っても靡かなかったもんな~あさみだけは。俺と涼太のカラミ見たくない?最後まで思う存分見学させてやるのに」 「そういう余裕ぶったチャラい所が嫌いなのよ」 ーーあさみは雄大を横目で睨む。 「余裕ぶってんじゃないんだよ。余裕なんだって」 「くっだらない。帰るわ。じゃあね」 ーー雄大を残し、あさみは颯爽と帰って行く。 腐ってなきゃいい女なんだけどな、マジで。

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