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第175話 同じ屋根の下に 1
今日は土曜日で仕事は休み。
青が仕事のため、オレは暇を持て余していた。
「買い物でもしてくるか・・・。暇すぎるな」
マンションのエントランスを出ると、道路沿いに引越し業者のトラックが停まっていた。
・・・新しい入居者かな?
ウチのマンションは15階建ての小さめのマンションで、オフィス街に近いため部屋の間取りは家族で入居するには少し狭い。
収入に余裕がある単身者か、同棲もしくは新婚さんかな?
そういや、ウチの隣空いてたよな。もしかしてそこに越してきたりすんのかな。死人が出た部屋の隣が嫌で出てったっきり誰も借り手がいないって青の兄ちゃんが言ってたけど・・・。
なんて思いつつ、少し歩いたところにある商店街へ向かう。
「よお、色男!今日はいい金目入ってるよ!」
たまに行く鮮魚店のおっちゃんに声をかけられて、店に入った。
「金目鯛かぁ・・・」
青、和食好きだし、煮付けにしようかな。
「じゃあそれもらう。おっちゃん、おろしといて。後で取りに寄るから」
支払いを先に済ませ、商店街をひと回りして野菜や肉を買って、また鮮魚店へ戻る。
「ほい。こんな色男にメシ作ってもらってる奥さんは幸せもんだなぁ」
おろした金目鯛が入った袋を受け取る。
「奥さん、だったらいいんだけどね」
「なんだなんだ、まだ結婚してねぇのか。あんまり待たせて逃げらんねぇようにしろよ~」
逃げらんない、のはオレの方なんだけどな。
でも、考えてみれば、青に逃げられるって可能性も無くはない。
今までだって、突き放されるのはオレの方じゃなかったっけ・・・?
オレ、ゲイでもないのに、こんな体になっちゃって、青に捨てられたらマジでどうなるんだろう。
女とは上手くいく気しねぇ。他の男求めるようになんのかな。考えたくねーな。
マンションに帰ると、引越し業者は隣の空き部屋に出入りしていた。
「すみません。しばらくバタバタしてると思うんですけど・・・」
業者の男性が部屋に入ろうとするオレに頭を下げてくる。
「全然気になんないんで大丈夫ですよ」
オレもペコッと頭を下げた。
部屋に入って買ってきたものを片付けて、ソファに横になる。
にしても、いくら幽霊とか見た事ないにしても、よく人が死んでた部屋借りれるよな、青。
まあ、そこに住んでるオレもオレだけど。
病院で働いてたら、そういう事も珍しくないから、気にしてないのかな。
そもそも非科学的なもの、信じるようなヤツじゃねーか。オレもだけど・・・。
ぼーっと考えているうちに、睡魔に襲われソファに意識ごと体を預けた。
ピンポーン
ピンポーン
いつの間にか寝てしまったオレは、インターホンの音で目を覚ます。
青が帰る時間にしてはまだ早い。
もしかして、隣の人かな。挨拶しに来た?
「はい」
ドアを開けて、ぎょっとした。
「やほ、涼太」
「ゆ、雄大さん・・・。どうしたんですか」
なぜ雄大さんがここに・・・?エントランスの鍵は開けてないはず。
「これ、引越しの挨拶がわり」
この包み・・・、会社の女性陣がおいしいって言ってた予約しないと食べれないミートパイ・・・!
「涼太、肉好きだろ?」
ミートパイの箱に釘付けになっているオレに気付いた雄大さんが、にっこり微笑む。
「好き、ですけど・・・」
じゃねえだろ、オレ!
「つか、雄大さん休日になんか用ですか?」
雄大さんが訪ねて来たなんて、青が知ったら・・・
「引越しだっつってんじゃん。今日からお隣さんだからよろしくな」
「引越し・・・お隣さん・・・」
もしかして・・・隣に引っ越して来たのって・・・
「雄大さん・・・ですか・・・?」
「月曜から一緒に出勤しような、涼太」
雄大さんは、呆然と立ち尽くすオレの手にミートパイの箱をのせて、「じゃあな」と笑顔で手を振り隣の部屋に入って行った。
・・・嘘だろ。
嘘だろ~!!
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