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第191話 fall 1

青がいない寝室を出て、シャワーを浴びる。 うう。腰も足も首もケツも痛てぇ。 浴室の曇った鏡を手で拭って、映された自分の体に驚愕した。 首輪で擦れて赤くなった首周り、青が噛み付いたり吸い付いたりして付けられた無数の痕。 「おわ・・・っ」 後ろからドロッと青に吐き出された精液が垂れてきて、誰に見らてるわけでも無いのに恥ずかしくなって、顔が熱くなる。 いくらオレの体が青のもんだからって、色々とやり過ぎだろ・・・。 バスルームから出てリビングへ行くと、テーブルの上に付箋が貼られた軟膏があった。 付箋を剥がして、ソファに寝転がり書かれた文字を読んでみる。 『仕事行ってくる 傷に塗っとけ』 青、今日仕事だったんだ・・・。絶対寝不足だろ・・・。 ん?・・・裏側にもなんか書いて・・・ 「『俺も、愛してるよ』?・・・・・・・・・はあ!?」 なんっだコレ!!きっも!恥っず! 思わず付箋を握り潰してゴミ箱に叩きつける。 つか、『俺も』って、『も』ってなんだよ!オレがいつ青に、あああ愛してる、なんて言ったよ! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ。 言ったかも・・・昨夜、もうわけわかんないくらい気持ち良くてトんじゃってて、恥ずかしい事いっぱい言ってしまった気がする。 そりゃー青に、あああ愛してる、とか言ってやったら喜ぶかな?なんて考えたりもした事は確かだけど! 実際に言うつもりなんか無かったのに~! ・・・青が帰ってきたら、どんな顔で迎えればいいんだよ~!! 「山田、今日ごきげんじゃねぇ?」 「わっかる!張り切ってるよね。俺もう疲れちゃった、休日の救急やっぱヤバイわ」 食堂で遅めの昼食をとる同期の嶋と高橋が、疲れた表情で俺の方を見ている。 「どうせ涼太がカワイイとか、そんな事で仕事頑張れちゃうんだろ?山田って、顔の割には単純そうだもんな」 ふっ・・・わかるか高橋よ。そうなんだよ。実は俺は結構単純なんだ。こと涼太に関しては、だけど。 『青、愛してる・・・』 イヤ、正確には『あいし』までしか涼太は言ってないけど。その後に続く言葉なんて『てる』しかないだろ。 ああ~。涼太が?俺を?愛してる?ああ~・・・。 ヤバイな。今まで涼太に幾度となく萌え殺されてもいいと思ってきたけど、もう死ねないな。 「はあ。好きを通り越して、愛してるだぞ?俺って罪だな・・・」 「・・・そーですか。どうぞお幸せに」 高橋の呆れ声も嶋の冷ややかな視線も、今の俺の脳は勝手に、祝福の声と羨望の眼差しへと変換してしまうのだ。 涼太、俺のメッセージ読んだかな? あいつ、嬉しくて泣いてたりして・・・。フッ。 大声で叫びたい。涼太が好きになってくれるずっと前から、俺は涼太を愛していると! 中学の頃からずっと・・・ 中学1年の二学期が始まってすぐ、席替えで隣になったうるさいヤツ。それが涼太だった。 「あ!やっべぇ!今日当てられるとこやんの忘れてた!」 今日も独り言がデカい。ていうかこいつ、毎回宿題やってなくて先生に怒られてんじゃん。・・・しょうがねーな。 「当てられるの、どこ?」 「え!?見せてくれんの!?やっさしい!えっとね、ここ!・・・オレ数学嫌いなんだよね」 数学以外でも予習とかしてない気するんだけど。 俺は自分のノートを涼太に手渡す。 自分が当たる問題を、俺のノートから丸写しする真剣な横顔。 「助かった~!ありがとな、山田!」 いつも声がやたらデカいだけで無愛想なこいつが、満面の笑みでお礼を言ってくるなんて・・・。驚き。 つーか、俺の名前なんか知ってたんだ。 小林 涼太はすごく目立つヤツだった。 祖父が総合病院の院長で、家がちょっとした金持ちで、スポーツ万能で、顔が女みたいに綺麗。だけど、残念な事に勉強ができない、所謂バカ。 密かに涼太に想いを寄せている女子が多いのも知ってる。本人は気付いていないみたいだけど。 数学の授業が始まって、いちばんに当てられる涼太。 丸写しした回答を堂々と黒板に書き込む。 「小林。それ、次の問題の答えだぞ。お前に当たってるとこは一問前だ」 「は!?マジ!?・・・えーと・・・そこは、やってません」 ・・・バカ。 「たまに真面目にやってきたかと思えば・・・本当にお前は・・・もういい座れ」 クラスメイト達がクスクスと笑う中、しょぼんと席に座る涼太を見ていると、俺の方を見てプクッと頬を膨らませながら思いっきり目を見開いて変顔を作った。 なにその顔、・・・めっちゃカワイイんですけど。 休み時間になるやいなや、涼太は「はあ~」と椅子に寄りかかって伸びをしながら俺に話しかけてくる。 「せっかく山田が協力してくれたのに~。しくっちゃったな~」 「小林、ほんとボケてんな。ウケる。つーか青でいいよ」 「あお?じゃあオレも涼太でいいよ。またノート見せてくれよな、青」 「涼太がちゃんと自分の当たるとこ覚えてたら、見せてやるよ」 あの笑顔が見れるなら、ノートなんてどれだけでも見せてやる。 涼太とマトモに話したのはそれが初めてだった。

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