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第200話 理事長のお墨付き 2
「理事長!どういうことです?話が違うじゃないですか!」
祖父に向かって声を荒らげる父。
「違う?院長はどういうつもりでここへ来たんだ?」
父とは対照的に、のんびりとした様子で茶を啜る祖父。
「もちろん、涼太の見合いのつもりで来ましたよ!」
「私は、見合いなんてひとことも言っとらん。涼太に会わせたい良い人がいる、と言ったんだ」
「っ!そうですが、涼太に見合いをさせたいと相談してから、それほど経っていませんでしたし・・・」
「知らん。院長が勝手に勘違いしただけだろう?・・・しかし、そうか、これは見合いの席だったか・・・・・・で、若いふたりはどうだ?院長もこう言っている事だし、今日は見合い、という事でいいか?」
祖父にそう問われても、オレはまだ目の前に座っているこいつが本物なのかどうなのか分からなくて・・・もしかしたら、現実逃避したいオレの脳ミソが勝手に見せている幻覚かもしれない、と思ったりする。
先に答えたのは、幻覚かもしれないその相手。
「俺には願っても無いことです。そちらさえ宜しければぜひ・・・・・・・・・見合い相手が俺じゃ不満か?涼太」
こいつ、本物だ。
・・・不満なわけねぇだろ。てか、どうしていつもお前はこんな・・・めちゃくちゃで強引なんだよ。
「オレは青がいい。そんなの聞かなくたってわかってんだろ」
「涼太も気に入ってくれたみたいで、じいちゃんはホッとしたよ。連れてきてよかった」
わはは、と豪快に笑う祖父。
じいちゃん、こんなんカッコよすぎだろ。やっぱりじいちゃんは、オレの大好きなじいちゃんだ。
「理事長・・・ご冗談が過ぎるのでは・・・?」
父は膝の上でワナワナと拳を震わせ、祖父を睨み付けた。
そんな父を見ても、祖父は顔色ひとつ変えず湯呑みを口へ運ぶ。
「少し昔話をしてもいいかな?」
その場の緊張感を完全に無視して、祖父は話を続ける。
「私には一人娘がいてな。本当にかわいらしくて、大事に大事に育ててきたんだ」
祖父以外が一斉に ぽかん、となる中、話は続く。
「突然、子供ができた、つまり妊娠したと聞かされたんだよ。娘が15の時だ。相手の男はウチの研修医だと言うじゃないか」
「理事長!こんな時に何を・・・」
「まあ聞きなさい。・・・私の妻は喘息持ちでね、酷い時は入院することもあった。娘は見舞いに来ていてその研修医と知り合ったらしいんだが・・・」
俯いた父の額から流れ落ちた汗が、スーツのボトムに染みを作っているのが視界に入る。
「娘はまだ子供、相手の男は25だ。どう思う?院長。控えめに言っても犯罪、だとは思わないか?」
「申し訳ございませんでしたぁ!!」
いきなり大声を上げて、土下座する父。
「頭をあげなさい。私は娘とお前が真剣に愛し合っていると思ったから一緒になる事を許したんだ。今度は、お前の番じゃないのか?」
祖父の言葉を聞いて、顔を上げる父。
「このふたりの本気がわからん奴を、娘婿として迎えたつもりはなかったんだがなぁ。やはりただのロリコン男だったと言う事か・・・残念だなぁ」
「お義父さん、それとこれとは・・・・・・・・・・・・ああ、もう・・・・・・わかりましたよ!」
「・・・だそうだ。よかったな、青」
祖父は青の肩に、ポン、と片手を置いてにっこりと微笑んで、もう片方の手を青の前に差し出す。
「はい。ありがとうございます」
祖父とガッチリ握手する青。
え、なんかオレ、置いてけぼり感ハンパないんですけど、どういう事?
この状況についていけないオレに、母がこっそり耳打ちしてくる。
「おじいちゃんのところにね、涼くんをください、って青くんが来たらしいの。涼くん単体が無理なら病院ごと涼くんをください、って」
ええ!?青、なんつー無茶な行動に出たんだよ!
「青くん、毎日毎日本家に通って来て、ゴルフにも釣りにもついて来て・・・今じゃおじいちゃんの将棋に付き合うくらい仲良しなんだって。おじいちゃん、互角に勝負できる相手が見つかったって喜んでた」
母は、ふふっ、と笑って立ち上がり、正座のまま項垂れる父の傍へ行き、丸まった父の背中を力いっぱい叩いた。
「ほら!もう、しっかりしてパパ!孫は美織ちゃんに期待しましょ!なんなら、わたしまだ46だし、もうひとり頑張っちゃう?今夜にでも」
かーちゃん、父と息子の前で何言ってんだよ。
「ううう・・・。涼太ぁ。・・・大事な涼太が男なんかと・・・うう~」
親父、泣きすぎだし。
「涼太、お前は可愛い孫で、青は私の大切な友人だ。ふたりがうちの病院を守っていってくれたら、こんなに嬉しいことはない」
オレの祖父は、最高にクールで、信じられないくらい器がデカい。
「じいちゃん、ありがと」
「ばあちゃん惚れ直すだろうな、こんなカッコイイじいちゃんだぞ?帰ったら褒めてもらわないとな!わはは」
自分でこんなん言っちゃう、ちょっと痛いところもあるけど・・・。
こうしてオレのお見合い騒動は、想像もしていなかった形で幕を閉じたのだった。
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