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第203話 大人の本気の本気 1
今の大学病院での初期研修2年を終えた後に、じいちゃんの病院で後期研修を受ける事に決めた青。
それに合わせて、オレも今の会社を退職する事に決めた。
退職まであと1年。
ゼロから携わった新店もなんとかオープン日を迎え、予想以上の来客と売上があり、上機嫌の部長の奢りで、企画部は、会社近くの居酒屋で打ち上げをする事になった。
「涼太くん、本社に来たばっかりなのに、もう退職なんて早すぎるよ~!」
先輩の中川さんは、頬を膨らませながらビールを豪快に飲む。
・・・彼氏に見せられない姿を、堂々と同僚に見せるのもどうなんだろう・・・女って、なんか不思議な生き物だな。
「あと1年ありますよ。できるだけの事はやりたいんで、ご指導よろしくお願いします」
「うんうん。涼太くんいなくなっちゃったら、また私が企画部の中で一番の若手になっちゃうから・・・あと1年めいっぱいコキ使うから、覚悟しててね!」
「ハイ。覚悟しときます」
・・・女って、怖い。
「涼太が会社辞めたら、俺が引っ越した意味無くなるな・・・通勤には便利だけど、あんな高層の部屋にするんじゃなかった」
はあ、と雄大さんは溜息を吐く。
「マンションはそのまま住むんで、いつでも会えますよ。青とケンカしたら焼肉連れてってくれるんですよね?」
「・・・・・・はあ~・・・」
雄大さんは、さっきよりも深い溜息を吐いてグラスに残っていたビールを一気に飲み干した。
帰り道「少し話そう」と言う雄大さんとふたり、マンションの前にある、植え込みを囲んだベンチに座る。
「青くんと、これからもずっと一緒にいるために会社辞めるのか?」
「はい」
「男どうしなんて生産性無いように思えるけど?・・・まだ若いから、熱くなってるだけ・・・なんじゃないか?」
「生産性・・・?」
それはどういう意味だ?
「子孫が残せない、って意味ですか?」
「まあ、極論はそうだ」
「別にいいです。オレは、青と一緒にいれる以上の事は望んでません。そのために出来ることをやるだけです」
会社を辞めるのも、そのためだけだし。
「お前は良くても、青くんはどうだろうな?自分の子ども、欲しいとは思ってないのか?」
・・・そう言われると・・・、どうなんだろう。
オレは青の両親に「子供も産めない」って言ったけど、青は・・・どう思ってるんだろう。
「お前が鈍感すぎるから、この際だし言っとくけど、俺は涼太が好きだよ」
「ありがとうございます。オレも雄大さん好きですよ。あ、セクハラさえ無ければですけど」
そう言ったそばから雄大さんに頭を引き寄せられて、咄嗟に顔を逸らしたけど・・・唇どうしが掠ってしまった感触に、落胆してしまう。
「だから!マジでセクハラやめてくださいって!あーもうショック・・・」
「お前は嫌がらせで、男にキスできるの?」
「は?」
「俺が、本当にセクハラ目的で涼太にキスしてると思ってんのか?」
「え・・・だってそれ以外無いでしょ。だって雄大さんは、美織が好きだったじゃないですか。フラれた腹いせに、同じ顔のオレに・・・」
あれ、雄大さん・・・なんでそんな苦しそうな顔・・・。
「涼太みたいに、何もかもを諦めるほどの覚悟は無い。でも・・・俺は涼太が好きだ。惹かれ始めたのはそうだったとしても、今は美織さんと重ねて見てるわけじゃない」
今、目の前にいるのは、誰なんだ?
余裕の欠片もなさそうな真剣な表情のこの人は、本当にあの雄大さんなのか?
「もう、手加減してやらない。全力でお前を奪いに行く。覚悟しておけ」
そう言って、オレをベンチに残してマンションに入っていく雄大さん。
え・・・。なんて・・・?
オレを、奪いに・・・?
・・・・・・・・・・・・まじで?
オレは、雄大さんの突然の告白に頭が真っ白になって、しばらくその場から動けずにいた。
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