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第204話 大人の本気の本気 2
翌日から、雄大さんのセクハラ・・・じゃなくてスキンシップはエスカレートしていった。
通勤中はやたらと肩に手を回してくるし、デスクワーク中には向かいの席からの暑苦しい程の熱視線、打ち合わせ中の異常なまでに近い距離・・・その他諸々。
もちろん、オレも黙っていない。無視もするし、時には手や足が出る事もある。
だけど雄大さんには逆効果のようで、更に激しいお触りで返されてしまう。
何もせず受け入れるのが、一番被害が少ないと悟ったオレは、雄大さんの好きにさせている状態。
おかげで社内では、すっかり公認カップルとなってしまっていた。
否定すればするほど、下手な勘ぐりを入れられてしまう。
力では雄大さんに敵う訳もなく・・・正に八方塞がり。
オレは女じゃないし・・・、こんな事くらいで泣き言は言えない。
青にも、言えないしなぁ・・・。
今日はデザイン部との打ち合わせが長引いてしまい、会社を出る頃には20時を過ぎていた。
もちろん帰りも雄大さんのスキンシップ付き。
・・・マズイ。この時間帯・・・青と鉢合わせてしまう可能性が!早く帰らねぇと!
「雄大さん、オレ今日はマジ急ぐんで!お疲れっした!」
オレは肩にまわった雄大さんの腕からすり抜け、走ってマンションのエントランスへ入り、エレベーターの8階のボタンを連打する。
地下から上がってきたエレベーターが開いて、慌てて乗り込もうとして、オレは固まってしまう。
「涼太。・・・残業?」
エレベータの中には、地下駐車場から上がってきた青が乗っていた。
「あ、青・・・!お、かえり・・・」
やばいやばいやばい!雄大さんがすぐそこまで来てる!
すぐにエレベーターに乗り「閉」のボタンを連打する。
あーもう!閉まるのおっそ・・・
「青くん、お疲れ」
閉まりかけたドアに手をかけた雄大さんが、笑顔で青を見てエレベーターに乗り込んでくる。
「お疲れ様です」
狭い空間の中に、ビリッとした空気が充満する。
オレと雄大さんの間に立つ青の横顔を盗み見ると、特に機嫌が悪そうでもない。
この空間に緊張しているのは、オレだけなのかもしれない。
なんでオレがこんな気分になんなきゃいけねーんだよ・・・。マジ雄大さんのせいだ。
「青くん、俺さぁ、涼太の事好きなんだよね」
え!?雄大さん、なんで青に言っちゃうんですか!
「わかってますよ。だからなんですか?」
ええ!?青、わかってんの!?
「涼太をさ、一晩でいいから貸してくんないかな?」
・・・一晩、・・・オレを、貸せ!?
「無理ですよ!無理に決まってんでしょ!つーかなんで、青に了承得る必要があるんですか!オレに聞けばいいじゃないですか、つっても貸しませんけど!」
あまりに馬鹿げた要求に腹が立って、青越しに雄大さんを睨んだ。
「涼太は青くんのものなんだろ?だったら持ち主のお許しがないと」
青は、何かを考えるように腕を組んで下を向く。
そうしているうちにエレベーターが止まり、オレ達は8階で降りる。
何も答えない青。
このまま雄大さんをシカトしたままか?
一言くらい・・・ダメだ、とか言って欲しかったかも・・・。
「涼太の鍵とスマホ、ちょっと貸せ」
「え?なんで?」
そんなことより、雄大さんにちゃんと断れよ。オレの持ち主なんだから。
「いいから貸せ」
???
言われるままに、カードキーとスマホをポケットから出して青に渡す。
「佐々木さん・・・俺の名前入りですけど、それでも良ければどうぞ」
トン、と青に背中を押されて、雄大さんに一歩近付いてしまう。
え・・・
「あおっ!てめぇどういうつもりだよ!」
今更オレを、他のヤツの所に行かせんのか!?
「涼太は俺のもんなんだろ。わかるだろ?俺に従え。じゃあな」
青はそう言って、ひとり 部屋に入って行ってしまった。
なんで?なんでだよ。オレ達は、これからもずっと一緒なんじゃなかったのか・・・?
青に見捨てられた気分になって、涙が出そうになる。
ポン、と雄大さんの手が肩に乗っかってきて
「部屋、入ろう。涼太の本命は心が広くて助かるよ。愛人を容認しちゃうなんてな」
そのまま肩を抱かれる形で、雄大さんの部屋へと入る。
どうしていいか分からないオレは、雄大さんに促されるままにリビングのソファに座る。
時々、こんな風に青に突き放されて・・・青の考えてる事が分からなくなる。
その度にオレは、青の事ばっかで頭がいっぱいになって・・・
「一晩だけ俺を、涼太の本物の愛人にしてくれよ」
ソファに浅く腰掛けるオレの手の甲に、雄大さんの唇が押し当てられた。
青・・・、オレはどうしたらいい?お前はオレにどうして欲しくて突き放した?
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