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第208話 happy wedding 1
俺達は今、とある結婚式場の控え室にいる。
「なんで貴様までここにいるんだ・・・!」
テーブルを挟んで睨んでくる小林父。
「一応、親族という事で招待頂いたんで。文句があるなら、お爺様とお義姉様に言ってください」
「あーもう親父、こんな日にまで意地悪言うなよ。ふたりが仲良くしてくんないと、オレ、悲しい・・・」
俺達の険悪な雰囲気に気付いた涼太が助け舟を出してくれる。
「涼くん・・・パパだって悲しいんだぞ。なんだって可愛い息子の横に、こんないけ好かない男が・・・」
すいませんね、いけ好かなくて。
「パパぁ、美織ちゃんのとこの病院長さんがご挨拶に来てくださったわよ」
「すぐ出るよ。・・・お前はもっと涼くんから離れて座ってろ!いやらしい!」
小林父は席を立ち、控え室から出ていった。
すいませんね、お義父さん。家ではとても人に言えない様な いやらしい事しちゃってます。
「ごめんな、青。親父ムカつくだろ?」
「別に平気だよ。あっちのがムカついてると思うし。・・・お前が気にすんな」
申し訳なさそうに謝る涼太の頭をグシャっと撫でる。
「好き放題言われるけど、俺にも好き放題言わせてくれるんだから・・・心が広いよ、お義父サマは」
「青のそゆとこ、カッコイイよな」
え!?なんて!?
涼太から「カッコイイ」なんて言われたの、久しぶり過ぎてドキドキすんじゃねーか!
しかも俺は・・・スーツ姿の涼太ににすこぶる弱い・・・!
「カッコイイ彼氏に、キスとか、したくねぇ?」
控え室の中は今、涼太と俺の二人きりだし・・・
「はあ?っこんな・・・誰が入って来るかもわかんねーとこで出来るかよ!」
「だから今のうちに。ほら、早く」
目を閉じて涼太の唇を待つ。
「ちっ・・・青のこの顔、・・・なんかキモイんだよな」
イケメン彼氏のキス待ち顔を舌打ちする程キモがるな。
「しゃーねぇな・・・」
しょうがなく彼氏にキスすんのかよ。お前の親父の言葉より傷付くわ。
涼太の唇がそっと当たる感触が・・・
「涼太のだんな様?」
控え室のドアの方から女性の声がして、柔らかい唇の感触が勢いよく離れた。
くっそ誰だよ、邪魔すんの。
「ばば、ばあちゃん!」
「あらまあ!色男じゃないの~!」
小走りで駆け寄って来た涼太の祖母に、両手で顔を挟まれ撫で回される。
「あの・・・すみません。ずっとご挨拶出来ずに・・・」
「いーのいーの!私、お友達と出掛けてばかりで家にほとんどいないし」
「ばあちゃん、美織のドレス見に行ったんじゃ・・・」
「ええ。見てきたわ、綺麗だったわよ~ドレスも素敵だった。涼太もきっと似合うわよ」
ニコッと涼太に笑顔を向けるお祖母様。
「さすがにドレスは・・・つかもう女装とかしたくねぇし」
涼太のドレス姿か・・・スーツより萌えてしまう自信があるな・・・。
想像を膨らませてニヤける俺を見て、涼太は顔を引き攣らせる。
「ちょっ、青!?・・・着ねえぞ、死んでも着ねーからな!」
チャペルでの式が終わり、式場の中庭にゲストの独身女性達が群がっていた。
どうやらブーケトスが行われるらしい。
「美織先生こっちです~!」
「私の方が切羽詰まってるんだからね、美織先生~!」
群がる女性達は、ステップの上に立つ美織さんに向かって我や我やとアピールをしている。
俺達は女性達から少し離れた場所で、シャンパンを飲みながら遠巻きにその様子を見ていた。
「すげーな・・・なんか、餌待ってる鯉みてぇ・・・」
涼太の女性を見る目が怯えている。
「新郎サイドのご友人達もすげー目で見てるな・・・彼女たちは自分でチャンスを潰してる事に気付いたほうがいいな。もったいない」
怯えながらも、冷静に女性達を分析している。
「投げます。落とさない様にしっかりキャッチしてくださいね」
美織さんがゲスト達に背を向ける。
「ふんっ」
思いっきり体を反らせて、美織さんの両手に持ったブーケが投げられた。
ピンクを基調とした花の塊は、空中高くに弧を描き、彼女たちの頭上を越えて・・・
俺の目の前に落ちてきて、思わず両手で受け止める。
え!?
一気に女性達の視線を集めてしまう俺。
いたたまれない・・・。
「そっちに行っちゃったか・・・。まあいいわ。同じ事だもの・・・。皆様、怪力の私がこうなるのは想定済みです。彼から取り上げるのも可哀想なので、もうひとつ用意してあります。次は弱めに投げますのでご安心を」
美織さんはさらに豪華なブーケを頭上に掲げると、再び盛り上がる女性達。
美織さん、もしかして始めからこうするつもりで・・・
「青、めっちゃ睨まれてたじゃん。うっける~。さすが怪力ゴリラばばぁ。普通こんなに飛ばさねぇだろ」
ブーケを持つ俺の横でゲラゲラと笑う涼太。
こいつ、相変わらずの鈍感だな。
「ハイ」
キャッチしたブーケを涼太の胸に押し付ける。
「は?なに?いらねんだけど」
「俺が受け取ったって事は、相手はお前しかいねーんだから・・・お前にやる」
「相手・・・?」
涼太は胸元のブーケを見つめて、ふっ、と笑う。
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