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第12話

今回の出張では、最終日に午前中から高額な原画の契約がひとつ取れた。その後も勢いに乗ったのか、立て続けに3件に絡めた。 先輩方は面白くなさそうだったが、会場責任者には珍しく褒めちぎられて、優大はほっと胸を撫で下ろした。 撤収作業をしている透に声を掛けてから帰りたかったが、電車の時間が迫っていて慌ただしく会場を後にした。 次の週の出張では、作業チームの中に透の姿はなかった。 会って顔が見たい。 ゆっくり話がしたい。 そう思っていたのに残念だった。 その次の週の出張会場で透の姿を見つけた時は、自分でもびっくりするぐらい胸が高鳴った。 会場設営を終えて店のバックヤードへと向かう透に、急いで声を掛ける。透はさして驚いた顔もせずに、いつもの皮肉な笑みを浮かべると 「今回は僕、最終日までここにいるけど……どうする?」 「ホテル、よかったら俺が皆とは別の所を取り直すよ」 「じゃあ、今日の分はキャンセル料払ってこっちに来れば?親戚のとこに泊まるって言ってさ」 「もしかしてまたツイン……予約してるの?」 「一応ね。ホテルはここ。待ってる」 透はポケットからホテルの案内が書かれた名刺を取り出して優大の手に押し付けると、片目を瞑ってさっさとドアの向こうに消えた。 ……うわぁ……。 優大は舞い上がりそうな気持ちを必死に静めた。 また透と同じ部屋で過ごせるのだ。それも今回は4泊も。 先々週の夜を思い出してドキドキする。 その日の仕事が終わると、優大は責任者に断って予約していたホテルに行き、規定のキャンセル料を払ってから、タクシーで透のホテルに向かった。 ホテルに着き、さてどうしたものかと首を捻る。予約しているのは透だが、フロントで彼の名前を言っていいのか分からない。携帯電話の番号も知らないから連絡のしようがない。 ロビーに行って考え込んでいると、後ろからぽんっと背中を叩かれた。 「あ。透くん」 「来いよ。5階だ」 透はにやっと笑うと、背を向けてエレベーターに向かう。 部屋に入るとすぐ、優大は透を抱き締めた。 透はちょっと驚いた顔をして 「僕のこと、抱きたい?」 にやりと笑ってみせる。 優大はすかさず頷いた。

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