13 / 24

第13話

そんな風にして、出張の度に会えればどちらかが都合をつけて同じホテルに泊まり、身体を重ねる。 そういう関係が3カ月ほど続いたある日。 「透くん。君に話があるんだ」 緊張に顔を引き攣らせながら、優大が話しかけても、透は雑誌を見ていて顔をあげてくれない。 「改まって、何?」 「俺、今の仕事を辞めて、転職するんだ」 透はようやく顔をあげた。驚いたように一瞬目を見張り、だが興味なさそうにすぐに目を伏せて、手元の雑誌を捲った。 「ふーん……よかったじゃん。あんた、あの仕事向いてないよ。性格良すぎるし、お人好しだし」 優大はそっと深呼吸してから 「それでね。もしよかったら……透くん。俺のアパートに、来ないか?」 「は?」 透は再び顔をあげ、こちらをまじまじと見つめた。 「君、あの出張の仕事がない時は、ネカフェとか、その……そういうことをする相手の所に、転がりこんでるって、言ってたよね?だったら、俺のアパートで一緒に……住まないか?」 ようやく言えた。 優大はほっとして、強ばった顔の力を抜く。 「……それ、本気で言ってんの?」 「もちろん。本気だよ」 透は探るような目で見つめていたが、苦笑しながら首を竦めて 「ふーん……あんた、そんなに僕の身体、気に入ったんだ?」 「身体だけじゃないよ。君と一緒にいると、すごく気持ちが落ち着くんだ」 透は首を傾げて目を逸らした。 「いいけど?僕は別に。誰んとこに行っても、やることはおんなじだし」 こうして、透は優大のアパートにやってきた。 口を開けば皮肉屋で憎まれ口ばかり叩く彼だが、一緒に住み始めてもまったく手が掛からない男だった。まるでひょっこり住みついた猫のように、お気に入りの場所を見つけて静かに寛いでいる。 一人暮らしの気楽さに慣れていた優大だったが、透の存在は邪魔にならないどころか、今まで満たされなかった自分の中の空虚さを、そっと埋めてくれる気がした。

ともだちにシェアしよう!