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第14話
転職してしばらくは慌ただしく落ち着かない日々だったが、最近は仕事にも職場にもようやく馴染んできた。
透はあの仕事以外にも、何か昼の仕事をしているらしい。アパートの家賃と生活費は、律儀にきっちりと半分入れてくれていた。
朝はそれぞれ仕事に出掛けて行き、夜になるとどちらか早く帰ってきた方が、簡単な食事の用意をする。一緒に食事をしてたわいもない会話を交わし、その気になればどちらかが誘って身体を重ねる。
そんな、穏やかで特に刺激のない毎日が、しばらく続いていたある日のこと。
「この匂い……カレー?」
珍しく帰宅が早かった優大が、ちょっといつもより手間をかけてカレーを作っていた。後から帰ってきた透が、くんくん鼻を鳴らしながら台所に来る。
「うん。もうすぐ出来るよ」
「あのさ。悪いけど、僕、カレーは無理」
「え?」
「食えないんだ。苦手。何か他のもん探して食うわ」
知らなかった。今まで透の食べ物の好き嫌いなんて聞いたことがなかった。
「ごめん……」
「いや。謝らなくていいし。言ってなかったもん」
透はゴソゴソと棚を物色し始めた。
「珍しいね。カレーが苦手って。前にハッシュドビーフを作った時は美味いって食べてたよね」
透はパスタと缶詰のソースを取り出しながら
「あれは別モンでしょ。それに、カレーはさ、味が無理とかそういうんじゃねえの。んー……なんて言うの?トラウマってやつ?ガキの頃、腐ったカレーを無理やり食わされて、腹壊して死にかけたんだよね」
さらっと漏らした透の言葉に、優大は仰け反るほど驚いた。
「えぇっ?無理やり食わされたって……誰に?」
透はまるで他人事のように平然とした顔でお湯を沸かしながら
「誰って……親に」
優大は絶句した。
父親は幼い頃に家を出て行ったと言っていたから、母親か。母親が小さな息子に腐ったカレーを無理やり?
……信じられない。
「そういう顔やめてくんない?別に同情なんかされたくない」
「しないよ、同情なんか。でも……酷いよ。腐った物を子どもに食べさせるなんて」
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