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第16話

透は、茹で上がったパスタを湯切りして皿に盛ると、缶詰のソースを小鍋で火にかけた。 「中学に上がる前に、家に帰された。あの男はいなくなってて、母親も周りの目を気にして表立っては酷いことしなくなった。でもその代わりほとんど家にはいないで、あちこち遊び歩いてさ、僕は最低限の生活費もらって一人で暮らしてた。田舎だったから噂になってて周りの目も冷たくてさ。中学卒業してすぐに、こっちに逃げてきたんだ。でも身寄りのない中卒にまともな仕事なんかさせてくれる場所ないし。あのゲイバーでオーナーに拾ってもらって、まあいろいろあって現在に至るってわけ」 温めたソースをパスタにかけた透の腕を、優大は思わず掴んだ。 「なに?」 「ごめん」 優大は透の身体をふんわり包むように抱き締めた。 「なんて言っていいか……分からない。でも、酷いよ。まだ小さい君が、そんな風に生きていたなんて。もっと早く君に会って、そこから連れ出してやりたかったよ」 腕の中の透がふふっと笑う。 「あんたって僕と5歳位しか歳違わないでしょ。その時まだ学生?会ったってどうしようもないじゃん」 透は乾いた感情のない声でそう言って笑う。でも腕の中で、透の身体が小刻みに震えているのが分かる。 「それでも。君に、もっと早く会いたかった」 優大の言葉に、透は腕の中から顔をあげた。その目が不思議そうにじっとこちらを見る。 「……泣いてんの?あんた……」 「ごめん……」 「優しいね、あんたって。僕の為に泣いてくれるんだ?なんの得にもなんないのにな。……そんな奴……初めて見た」 それから4日後に、透は忽然と姿を消した。 その日、優大が仕事から帰ると、部屋はきちんと片付けられていて、いつまで待っても透は帰ってこなかった。泊まりの時にはいつも、スマホの連絡用アプリでひと言伝えてくれたが、それもない。もともと少なかった彼の荷物や服も、部屋から消えていた。 ……出張か?でも…… ここ数日、透はなんだか元気がなかった。 優大は胸騒ぎを覚えてアパートを飛び出した。もちろん、周りを探し回っても、透の姿はない。 彼の番号に電話しても繋がらない。 優大はあてもなく、夜の街を探し回った。 でも透はいない。 消えてしまったのだ。 細い糸がプツリと切れたように、透と過ごした日々は、こうして呆気なく終わってしまった。

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