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第17話
透が姿を消して、1ヶ月が過ぎた。
最初の1週間は仕事が終わると大急ぎで帰って、透が来てくれるのを待った。
だがやがて、アパートの部屋で1人で過ごす時間が耐えられなくなり、わざとズルズル残業してみたり、深夜までファミレスに寄ったりして、部屋には寝に帰るだけになった。
何をしていても、ふっと透の顔が浮かんでくる。
どこにいても、無意識に透の姿を探してしまう。
自分はこんなにも、透のことが好きだったのだ。おそらく初めて会った時から惹かれていた。再会して最初は身体から始まった関係だったが、知らないうちに好きになっていた。
思いがけず同棲まで出来て、それでもどうしても、彼に好きだと告白することは出来なかった。 大学の時の手酷い失恋を、ずっと引きずっていた。
トラウマ……ってやつなのだ、きっと。
透はゲイではない。生きるために男に抱かれてはいたが、彼はストレートなのだ。 だから、自分に抱かれることも、本当は辛かったのかもしれない。はすっぱな物言いはしていても、意外と律儀な人だったから、きっとずっと我慢していたのだろう。
分かってやれなかった。
気づいてあげられなかった。
黙って姿を消したのは、もう自分には抱かれたくなかったのだ。
少しずつ時間をかけて、優大はそういう結論に達した。
それでも、ふとした瞬間に、透の姿を探してしまう。
もう一度、彼に一緒に暮らしてくれなんて言うつもりはない。
ただ、謝りたかった。自分がもし無神経に傷つけていたのなら、もう一度だけ会って、心から謝りたかった。
夜の街に繰り出し、1人で酒を飲む。ゲイが集まる店は、最近は極力避けていた。
もう自分には、人を好きになったり付き合ったりするのは、無理だと思った。
その日は、1軒目で程よく酔って、まだ帰りたくなくて2軒目に足を向けた。
その途中、初めて透と会ったあの店の前を通りかかった。もしかしたら彼がいるかもしれないとは思ったが、この頃はもう、彼に会う勇気もなくなっていた。
足早に通り過ぎようとした時、店の入口から男たちが出てきた。囲まれるようにして、脇の路地に向かう透の姿が見えた。
優大は、ハッとして足を止め、彼らの姿を見送った。彼らが路地に消えても、しばらくそこから動けないでいた。
だが、今さら会ってどうする?
彼のスマホの電話は、現在使われていませんと告げていた。それが透の答えなのだ。もう自分とは関わりたくないのだ。
地面に張り付いてしまったような自分の足を無理やり引き剥がして、優大は歩き始めた。
もし彼に会って、迷惑そうな顔をされたら、もう立ち直れそうにない。
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