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三の2

 ……ダイゴがサヤカを通してなにを吹き込んだのか知らないけど、カリンが今週末遊ぼうって連絡を寄越してきた。めんどくせ。  でも毎日死んだようだったから、いいよって言った。案外カリンと遊んだら紫のことを忘れられるかもしれないとも思ったから。  紫と会えなくて一週間が過ぎていた。その間ずっと夏の晴れ間で、青空が俺を蔑むように広がっていた。  休日の雑踏に紛れてカリンと手を繋いで人ごみの街の間を掻き分けていく。別に繋ぎたくないんだけど。だって俺たち友達だろ。  しかしあんなに魅力的だったカリンが自分から俺に張り付いて胸を押し付けているのに少しも欲情できない。なんでだろう。もっといい女だった気がするんだけど。  なんか人気の甘ったるい飲み物を並んで買って、ツーショットを撮って、加工して、上げて。付き合い直したわけでもないのに「仲直り記念日っ」とかコメント添えられて。俺はなにも言わないで笑ってさ。  ウィンドウ・ショッピング。  夏のワンピース、麦わら帽子、水着、サンダル、サングラス、夏コスメ、浴衣、扇子、風鈴、曹達水……。  夏。  待てよ。まだ梅雨だよ。まだ雨は降るだろ。紫陽花だって咲いてる。店先の紫陽花を見た。彩度が日に日に失われている。でも咲いてる。咲いてるから。まだ終わらないで。  来ないで夏。  俺、少しも、全然楽しくない。  アクセサリーショップに入った時、紫陽花の髪飾りが目に入った。俺は立ち止まってカリンを忘れてそれに吸い寄せられて行く。  赤紫、青紫、本紫の、紫陽花。灰緑の葉に、雫の真珠が、綺麗。  カリンが俺の傍で可愛いね私に似合うかななどと言っていた。いや似合わんよお前には。彼の髪にこそ……これはきっと良く似合う。  噎せ返る彼の匂いを感じた。思い出したように窓の外を見る。雨が。  降っていた。  なんか泣きそうだった。 「ごめん、用事できた。帰るわ」  立ち尽くすカリンを置いて髪飾りを買った。 「今日は楽しかった、友達同士だけど」  別れ際に彼女に笑いかける。  俺を長靴で振った女。 「雨が降ったから、もう行くね」  手を振って駆け抜けた。  

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