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四の2
「もうそんなのいいよ! 妖精ごっこは終わりだよ! 俺のせいだから。もう惑わすとかいいから……あなたは、っ、あなたはどんな姿でも綺麗だよ! 毎日あなたのことを考えてた! どこ住みですか。職業はなんですか。兄弟は、好きな食べ物は、ねえあなたのこと、全部知りたい……ッ、俺と、付き合ってよ、こんな高校生のちびだけどさ、もう俺あなたしか眼中にないよ……!」
我ながら言ってることがめちゃくちゃだ。
ポケットから包みを出して紫に差し出す。
「これ、あなたに……お詫びじゃ、ないけど……」
わあ、と感嘆の声が聞こえた。顔を上げたら、紫が笑ってくれる。
彼は俺がなにも言わなくてもそれを耳の少し上の髪に付けた。座り込んでいる俺の前で屈んで笑う。雨が降っていた。雫が葉の緑の上で跳ねて切なく舞っている。
「似合いますか」
彩度を失った花々の中で、彼と彼の髪を彩る紫陽花だけがただ眩しい。
俺……こんな綺麗な人見たことない。
手を取られた。
触れてもいいの……?
「贈り物を頂くのは初めてです。本当にありがとう。ずっと大切にします。ずっとずっと。それに……あの……だれかに、求められたのも……初めてでして……」
まじかよ。
「わたしは日陰者ですし、おまけにこんな姿でこんな性格だから……辟易、されてしまって……。だから、翠くんが声をかけてくれた時、本当はすごく嬉しかったんです……本当に……嬉しかった……キス、も……嫌だったわけではないんです。ただわたしは翠くんを、失いたくなくて……」
「……どういうこと?」
「だってわたしは女性ではないし、きみよりずっと年上だし……生きている環境も違うから……きみを傷つけてしまうから……こんなにやつれてしまったし……」
もううるさい。
四の五の言わずに彼の体を抱き寄せる。
「……キスしてもいいの」
腰を引き寄せて俺の膝の上に乗せた。軽いなおい。
俺の胸板に手を添えた彼は、俯きがちな顔はそのまま俺を上目遣いに見て言う。
「翠くんが、してくれるのなら」
「抱いてもいい?」
「……っ、こ、こで……?」
腰の他に頭の後ろをぐっと掴んで引き寄せる。逃がすか。
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