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第7話(前編)
・〇〇しないと出られない部屋
伊吹 絢瀬(いぶきあやせ)
↳カフェでバイト。26歳。口が悪く付いたあだ名は「サタン」。
神田 梓季(かんだあずき)
↳同じくカフェでバイト。19歳。愛想が良く誰とでも付き合える。
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「……で?これはなんの嫌がらせだ?」
「お、俺じゃないですよ!?」
一面白い壁で囲まれた部屋。
シミひとつないそこに石で出来た小さめの扉があるくらいで何も無い、質素な空間。
扉には『〇〇しないと出られない部屋』と書かれたメモ。
そこに俺たちは自分の意思で来た訳でも、迷い込んだ訳でもない。
滅多にない絢瀬さんの休日前、ゆっくりしっぽり甘〜い夜を過ごした後、なんだか眠くなってきてそのまま二人ベットに沈みこんだ。
「……で、起きたら閉じ込められてたと。不思議なこともあったもんだな」
「っち、違うんですってば!俺本当に何も知らないんです!」
「んなわけあるか。ここは誰んちだ?」
「それは……っ俺です、けど」
「あの後最後に寝たのは誰だ?」
「それも……俺です」
「最近変わったプレイをしてみたいと言ってたのはどこのどいつだ?」
「…………俺です」
「じゃあお前しかいないな?」
「違います!」
「……ハァ。まぁ信じるかは置いといて、〇〇ってなんだ」
うぅ……本当に知らないのに、完全に疑われてる。
「確かに。肝心な内容が分からないと脱出のしようがないですよね」
「なんでちょっと楽しそうなんだよ…」
げんなりとした声が聞こえたが特に気にせずに壁をペタペタ物色する。
カサッ
上から紙切れが静かに落ちてきた。
「"キスをするまで出られない"……?」
「キス?それくらいどうってことないですよ、ね?絢瀬さん」
「あ、あぁ……それで開くなら…」
もう何度もしてる事なのに、相変わらず慣れないのかムギュっと瞑る瞼。
少しきつく結ばれた唇に自分のをそっと重ねる。
「……んっ、ちょ、神田…!舌、やめ……っ」
「……っはぁ………舌入れた方が感知されやすいかもしれないでしょう?」
「そう、っだけど……んん、」
そもそもこんな一面真っ白な壁の何処にセンサーがあるんだ?
誰か見てる様子は無いし、そんな穴もカメラもない。
「……っ、おい開かないじゃねぇか」
気づけば沸騰しそうなくらい顔を真っ赤にした絢瀬さんが全くもって怖くないが睨んでいた。
うわ、可愛い。
……って違う違う。
「んー……絢瀬さんからしてみるのはどうですか?」
「無理、そんなの出来ない」
「でも、違うパターンで試したら開くかもしれないですよ?」
「う……」
まぁ本音は絢瀬さんからして欲しかったっていうのもあるけれど。
「……目、開けんなよ」
「わかりました」
俺の後頭部に手を回しておずおずと近づいてくる。
うわ、可愛いんだろうな。
見えないのがちょっと惜しいけど。
ふにっと触れた唇は若干震えていて、緊張してるのが丸わかりだった。
「絢瀬さん、舌」
「わかってるけど……」
少し間が空いてまた柔らかい唇が触れる。
今度は震えていなかった。
「おい、口開けって」
薄く開けたそこから舌が入ってくる。
まさか絢瀬さんからそんなこと言われる日が来るなんて思ってなかったなぁ〜
「ぁっ、……ふ、ぁ……んんっ」
……まぁ言い方は相変わらず横暴だったけど、自分からしかけたキスだけで膝がガクガクしている恋人の可愛い姿が見れたから俺としては十分満足だ。
カサッ
また頭上から紙が降ってきた。
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