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第24話

「みんな隠しているだけで、何かしらは人と違うものを抱えている者は多い。現に術士ギルドで隠し飼いしている魔獣たちだって姿を変えられないだろう。姿を変えるのは、夜の世界の住人達だけだ」 「……エウレは人間です。確かに術士としては異例の力を持ちますが、それは彼の師であるギルドマスターのシヴィも一緒だ」  それなんだよね~とようやくトルトは机の上で頬杖をつきながら嘆息する。エウレの力が異能だというなら、その術を教えたシヴィだって同じことになる。 「まあ、僕が言いたいのはね。もしエウレくんが本物の夜の世界の住人だったりしたら、彼を連れて逃げろってこと。本物だなんて知られたら、護霊庁は彼を今回の事件の犯人に仕立て上げようとするのは目に見えている。僕たちが違うと叫んでいても……」  話を続けようとしたトルトだったが、部屋を強く打ち鳴らすノック音に怪訝そうな顔になった。フィーデスが代わりに扉を内側らから開くと、顔を青くした調査官の一人が立っている。その震える手には小さなメモ紙が握られていた。 「と、トルト長官にご報告です! 先ほど依頼を受けました職位石の持ち主ですが――アッチェのものでした。もう石はもう光らず――おそらく、アッチェはもうこの世にいないのではと」 「何を馬鹿な! アッチェなら普通に生きているよ! ついさっきも会って仕事をお願いしたばかりだ」  調査官の報告に音を立てて立ち上がったトルトはフィーデスと視線を交わす。  護霊官が護霊官となる時に与えられる首飾りの石は職位石とも呼ばれ、護霊官の階級などを現すのと同時に、その者が命尽きるまで光り輝くという。その石が輝きを失うということは、持ち主の命が尽きたことと同義である。石が光らなくなるまでには魂がこの世に留まるという数日は必要だと言われているので、石が光らないとするなら数日前にはアッチェはこの世から去ってしまっていることになる。 「まずいな。フィーデス、アッチェとエウレくんを探すよ」  二人はすぐに部屋を出ていて、彼らが向かったはずの資料庫へと行ったが一つだけ開かれた資料庫に入っても、人どころか何も動く気配はない。 「ここはほかに迂回できない。彼らがこっちから戻ってきたら必ず出会うはずだ」 「トルト、他の部屋にはかぎが掛かっています」  フィーデスとトルトが手分けをして資料庫の中を探したが、その奥にある被害者たちの亡骸が保管されている場所にもどこにもアッチェもエウレもいなかった。 「まるで消えてしまったようだな……そういえば、魔獣事件の犯人は黒い穴みたいなのを使って移動をしていたよね」 「……エウレが、連れていかれたということですか」  一気に無表情になった己の部下にトルトは真剣な表情で頷いて見せた。 「思えば、エウレくんも今回の事件のキーマンではあるのだよ。事件が起こるたびに彼は検死に駆り出されて――しかも、被害者は自分のギルドに関わっていた護霊官の可能性があって」  考えながら話し続けるトルトはそこまでで一旦区切ると、己を落ち着かせるように深呼吸を一度する。 「すべて僕の想像だけどね。困ったな、エウレくんも本人が知らないのに夜の世界の住人であった場合、彼まで消そうする馬鹿がいそうだし……」  思い悩むトルトを見ながら、フィーデスはハッとなった。 「トルト。術士ギルドのマスターをお連れします。彼は以前、黒い穴を目撃した時に何か思い当たる節があるようでした。彼の協力を仰ぎます」 「分かった。急いでね! 僕は話の分かる子たちに手伝ってもらって護霊庁の中を探すから……もしかしたら、もうこの中にはいないかもしれないけど」  トルトから離れて、フィーデスは護霊庁の建物から飛び出ると、厩舎に向かいトルトの馬車用に飼われている馬を一頭連れ出す。何人かがそれを見つけて大声で制止してきたが、ここで立ち止まるわけにはいかなかい。  もうじき夜の世界が訪れる、そんな時分。  今日最後の力を振り絞るように空を深紅に染めながら消えていく残照を視界に映しながら、フィーデスは下町に続く坂道をわき目もふらずに馬を走らせた。

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