31 / 39

第31話

「俺より背が高くなっているし、ほんっと腹立つ。何喰えばそんなにでかくなるんだよ。昔は可愛かったのに……」 「背が高くなっただけですから、可愛がってくれたらいいです」  すました顔をして答えたフィーデスが着ている護霊官の制服の襟元を掴んだエウレの手が、思いっきり引っ張ってきたかと思うと噛みつくような口づけをしてきた。それを逃がさないように深く口づけるとエウレが苦しがる気配がしたが構わずに続ける。いつも通りの自分を演じ続けているが、エウレの記憶から自分が消えていなかったことが――あまりにも、嬉しくて。    やがて草原の中に二人で座り込むと、顔を赤くしたエウレがフィーデスの制服を脱がしにかかった。だが、術に関してはあれ程の凄腕を持っているというのにボタンを外そうとする指は緊張もあるのか苦戦していて、それだけに一生懸命になっている様子がたまらず愛しく思えて草原の上にエウレを押し倒すと、エウレはあの綺麗な紫の瞳をまん丸に見開いていた。 「そうやって俺の忍耐力を試そうとするの、いい加減やめませんか」 「た、試すとかしてないだろ!」  組み敷かれたまま言い返してきたエウレにまた口づけるとおずおずとエウレが応えてくる。体はまだ逃げようとするかのように緊張しているが、あの辛い記憶もまだエウレの中に残っているはずなのにフィーデスを受け入れようと頑張っているのが目に見えて分かる様子に眩暈がしそうだ。 「エウレ……緊張している?」  わざとらしく尋ねると紫色の瞳が睨みつけてきたが、すぐにふいと逸らされる。露になった耳を優しく食んでも少し震えただけで、すぐに耳まで赤くなっていることに気づく。月の光が眩く降り注いでいるとはいえ、魔族ではなくてもエウレの――水の精霊『アクィア』の体は仄かに光って見えるようだった。そのくらい美しい肌に触れていいのか一瞬惑ったが、こちらに向き直ったエウレが唇を恥ずかし気に真っすぐに引き結んだまま両腕をフィーデスの背に回してくる。 「――んっ」  引き結ばれたエウレの唇を何度か啄むように口づけてからゆっくりとその口腔内に舌を差し入れるとくぐもった小さな喘ぎが零れ落ちる。エウレの着ている服は簡単な造りをしているので、上着の袷を開いて腰ひもをといてしまうと簡単にその素肌を野に晒すことになってしまった。己が着ていた護霊官の制服である白銀の長衣を寛げるとお互いの素肌が触れ合う。  フィーデスの手が下肢を触れてくると身を捩らせるがその度に口づけることで少しずつエウレの緊張も解けていくかのようだ。 「……あっ、ん……」  初々しい色をした胸の飾りをたっぷりと舐ってから下肢へと手のひらを動かしていくと、恥ずかしげに勃ち上がっているエウレのものに触れた。慌ててそこを隠そうとするエウレの手を振り払うと緩やかに刺激を与える。エウレは喘ぐのを堪えられないのが恥ずかしいのか、フィーデスに追いやられてしまった己の手で口を覆い隠そうとしていたが少しずつ追い上げられていくのに堪えられず声を漏らした。エウレの先走りがフィーデスの手のひらを濡らしていく。 「エウレ――濡れている」  耳元でフィーデスに囁かれて、エウレはぎゅ、と目を閉じた。前はもちろんのこと、フィーデスが指を差し伸ばした後孔のあたりから水音がしてきて、狭いものの滑りは悪くなくフィーデスの指を迎え入れてくる。 「し、しらな……こんな、なったこと……ないから――あ、あ……っ」  いやいやをするように首を小さく左右に振ったエウレを安心させるようにまた口づけをしてからその細い体をうつぶせにすると後ろから貫く。耐えきれずに嬌声を上げたエウレを逃がさないように後ろから抱きしめながら奥まで突き入れると、エウレの勃ち上がっていたものが震えたのが分かった。 「あ……ぅ、…フィー、きもち……い?」 「気持ち良すぎて――こんなところまで、人と違わなくてもいいのに……危険だ」  腰を打ち付け、エウレの最奥を突き上げていくごとにじゅぶ、とお互いの体液がまじりあう音が大きくなっていくと、雨に濡れたわけでもないのにエウレの体は精霊として本来持つ色や形へと姿を変えていった。男同士で経験がなくても、今エウレと繋がっている場所が自然と濡れるわけではないのは当たり前に分かっている――が、こんな時に恋人が持つ特異な体のことをまた一つ知るなど、ちょっとした皮肉にも思えた。 「あ、………いっ、……っ」 「エウレ――」  大きくエウレの体が震え、それから力尽きたように弛緩する。普段の彼では考えられないくらいに素直に体を預けてきたエウレに、フィーデスは自分の感情が抑えられないくらいに溢れそうで、意識が飛んでいる恋人の中で再び動き出す。 「フィ、や……ん、……ああ!」  エウレが自分が上なのにと文句を言っていたのを思い出し、背面座位の姿勢で深く繋がると飛んでいた意識が戻ったエウレが驚いたようにこちらを振り向こうとしたが、強く突き入れると青年らしく低い、けれど耳朶に心地よい嬌声を上げながらフィーデスのものをきつく締めあげる。  時間を失ったようなこの場所で、エウレの意識がなくなるまで二人の獣のような交わりは続くのだった。

ともだちにシェアしよう!