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君が嫌いな君が好き-1※嘔吐表現有

深夜、隣から激しく嘔吐く音が聞こえて目を覚ました。 りつがこちらに背を向けて、体を丸め苦しそうに藻掻いている。それから鼻を刺すような、饐えた匂い。 「…っぅ、うぅぇッ…ぅぐ、えぇァっ」 「りつ?」 すぐに体を起こして背中を摩る。 りつの顔は、涙と涎と鼻水と嘔吐物でぐちゃぐちゃだった。りつの枕も、シーツも嘔吐物で汚れてしまっている。一体いつから吐いていたんだろうか。 「う。うぅっえぇッ…っ」 既にりつに胃の中は空っぽになっているんだろう。ただ胃液を吐き出している。 どうしてもっと早く気付かなかった。すぐ横で寝てたのに。りつの寝返り一つにも気を張っているはずだったのに。 「りつ、気にしなくていいから。楽になるまで全部苦しいの出しちゃおう、ね。」 そう言いながら寄り添うことしかできないことが、すごく歯がゆかった。 数分ほどすると、段々とりつが落ち着いてきた。まだ呼吸は荒いが、吐き気は収まったようだ。 「起きれる?今タオル持ってくるから。」 りつを起こし、自分もベッドから下りる。 りつの着替えと、替えのシーツ…いや、今日はもう布団敷いて寝ちゃった方がいいかな。 待っててね、とりつに声をかけようとして、動きを止めた。りつが涙を流しながら、ベッドに座り込んでいる。その体は、誰が見ても異常だと分かるほど大きく震えていた。 「う、う…っ、ふっ、もぉっ、やだ…」 「りつ、」 このままだと、まずい。 なるべく穏やかな声で、名前を呼ぶ。 しかし、りつの反応は薄い。 りつが自分を守るように自身の体を抱きしめていた腕が解かれ、その生傷だらけの手首に触れる。 次の瞬間、りつは塞がり切っていない傷に思い切り爪を突き立てた。 「やだやだ、いやだ…っ。しにたい、しにたいっ!!」 ぶつぶつとそう呟きながら宙を睨み、自らの腕を抉っていく。白い腕を流れ落ちる真っ赤な血を見て、ゆうじの体はやっと動いた。 「りつ!」 りつの腕を掴み、患部を確認する。薄いピンク色の肉が見えて、先日手当したばかりの傷が開いてしまっていた。 早く、止血しないと。 焦るゆうじとは裏腹に、滅茶苦茶に暴れるりつ。まだまだ未熟なりつの力などたかが知れているが、その姿に心が痛む。 「しにたい、もう…ゆるして、おねがい…しにたい…っ」 涙ながらに何度もそう訴えるりつが、どうしようもなく不憫で、愛おしかった。 ごめんね、りつ。俺の我儘でりつをこの世界に縛り付けてしまってるよね。 小さな体を傷だらけにして、消えない過去と痛みに苛まれて、それでも、生きていて欲しいんだ。

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