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りつのよる

「いたい!いたい!やめて、やめて…っ」 「おとうさん、やめて…っ」 「おとう、さん…!」 何度も、手を伸ばした。 裏切られると分かっていて。それでも信じたくて、愛されたくて。 僕を見て。 僕を愛して。 肋にヒビが入るほど強く殴られても、タバコの火を背中に押し付けられても、頭から熱いシャワーをかけられても、体を何時間も弄られても、耳を塞ぎたくなるような罵詈雑言を向けられても、何日もお腹が空いてふらふらになっても、それでも、信じていた。 おとうさんからの、無条件で無限の愛情を。 気付けば僕の心は空っぽになっていた。中身のない人形と同じ。 痛くて苦しくて悲しくて寂しくて、逃げたくて。 今でも思い出す。死にたいと願い、全てに絶望していた日々を。 優しくされたことなんて1度もない。 なのに、まだおとうさんを信じたいと思っている。 記憶の中のおとうさんの声が、大きくなっていく。 「お前のせいで滅茶苦茶だ!お前のせいでなおは死んだ!!」 「死ね!死ね!!」 「こっちを見るな!あっちへ行け!」 「りつ、おいで。お前の顔は、お前の母さんにそっくりだ。綺麗で、可愛い。りつ、お父さんの寝室においで。」 やめて、やめて、やめて。 ごめんなさい。 ごめんなさい、ごめんなさい。 いい子にするから。言うこと聞くから。もう泣かないから。 僕を、愛して。

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