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りつのよる-3
「日常的に虐待されている可能性があります。」
りつを抱えて連れていった救急で、若い医者からそう告げられた。
「傷は、新しいものから古いものまで様々。腕の火傷の痕は比較的新しいですね。煙草のようなものを押し付けられたようです。あと、これは詳しく検査してみないと分かりませんが、胸部や背中に触れると痛がっていましたので骨にも問題があるかもしれません。」
つい1時間ほど前に出会った男の子の、耳を疑いたくなるような診断を、ただ呆然と聞いていた。
「体重も著しく少ないです。体力も消耗して衰弱しています。あと数日発見が遅ければ、危なかったですね。貴方に見つけてもらえて彼は幸運です。」
幸運?あの子が?傷だらけで、ひとりぼっちで倒れていたあの子が、幸運?
色んなものに、腹の底から怒りが湧いた。
あんなにか弱い子が、どうして辛い目に遭わないといけないんだ。あの子が一体何をしたというのか。
だけど自分は同じアパートに住んでいただけの部外者で、あの子の家の事情なんて分からないし、ましてや名前さえ知らない。
あの子は、体力の限界だったのか簡単な手当をしている途中で気絶するように眠ってしまったらしい。今日はこのまま病院で眠らせて、明日の朝然るべきところへ連絡すると言った医者に全てを任せるしかなかった。
胸にどす黒い渦のようなものを抱えている感覚が、気持ち悪い。
あの子は、どうなるんだろう。
あの部屋にはあの子の他に誰もいなかったけれど、両親と一緒に住んでいるんだろうか。
いつから、虐待されてたんだろう。
そんなことばかり考えて、部屋に戻っても目を閉じれば傷まみれの痩せた体が瞼の裏に浮かんできて、その日の晩は朝まで一睡もできなかった。
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