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りつのよる-4
次の日の夕方、職場からの帰宅途中に携帯を確認すると、知らない番号から着信が入っていた。折り返し電話すると相手は警官で、昨日の総合病院まで来て欲しいと言う。
確かに連絡先は置いてきたけど、何の用だろう?昨日勝手に人の家に上がったから?
警察に呼ばれることなんて初めてで、病院に着いた時には、少し息が弾んでいた。
待合室で待っていたのは、スーツを着た30代くらいの人当たりのいい警察官だった。
「すみません、わざわざ来てもらって。」
申し訳なさそうに頭を下げる彼につられて、ゆうじもぺこりとお辞儀をする。
「あ、いえ、それは構わないんですが…。何かありましたか?」
「りつくんのことで少し伺いたいことがあって。」
「りつ?」
「昨晩貴方に発見された男の子です。」
「あ…あの子…。名前が分かったんですね。家族も見つかりました?」
あの子は、りつというらしい。
家族でも見つかったのかと警察官に尋ねたが、警察官は顔を曇らせて首を振る。
「それが、行方不明なんです。りつくんは父親と一緒に住んでいたみたいなんですが、アパートの部屋に帰ってこないんです。」
「…逃げたんですか。」
一瞬で、昨日と同じ怒りに火がついた。
あんな状態の子どもを置いて帰らないなんて、どんな親だ。
「分かりません。りつくんの傷には真新しいものもありましたし、まだ外出中という可能性もあります。あ、いや、そもそもあれが父親から受けた傷かどうかも不確かですし。」
「仮に親から受けた傷じゃなくても、あんなになるまで放置した事実は、虐待と呼べるんじゃないですか。」
「まあ、はい。それは…」
ゆうじが発する剣呑な空気を感じたのか、警官は苦笑いを浮かべている。
口から次々に溢れそうになる棘のある言葉を、ぐっと飲み込んで深く息を吸った。
ここで、この人に怒っても意味無い。落ち着け落ち着け。
「それで、用件はなんでしょうか。」
ゆうじの問いに、警官が背筋を伸ばす。
「実は、りつくんが目を覚ましてから大変不安定で。とても話を聞けるような状態じゃないんです。今は児童相談所の職員が傍についてるんですが、やっぱりダメで。同じアパートの顔見知りの人でもいれば、りつくんも安心できるかと思って来て頂いたんです。」
「いや、俺は…」
昨日初めて会って、顔見知りでもなんでもない。そう言おうとして、躊躇った。
ここで断ると、あの子を見捨ててしまうような気がして。あの子にもう一度会わなければないないと、ただ漠然とそう思った。
「あの子に会えますか。」
「勿論。貴方はりつくんの恩人ですから。こちらです。」
少し安心したように頷いた警官の後に続いて、ゆうじは小児病棟へ向かった。
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