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りつのよる-5
当時のりつは、個室に入院していた。
会ったらまず何と声をかけようか、と考えながら室内に入ってゆうじが見たものは、ベッドの上で拘束されているりつの姿だった。
両手両足をベルトのようなもので固定されて、拘束から逃れようと闇雲に藻掻いている。
「やだ、やだ…、や…ああああっ!」
喉が潰れてしまうんじゃないかと心配になるほど、りつは枯れてしまった声で泣き叫んでいた。
「ずっと、こんな感じなんです。あまり暴れると傷にさわるので…可哀想ですが…。」
呆然とその姿を見ていると、りつのベッド脇に立っていた優しそうな若い女性が、半泣きでゆうじにそう訴えてきた。さっき聞いた、児童相談所の職員だろうか。
想像していたよりも、状況は最悪だ。
「りつくん。」
ゆうじは、深呼吸を1つしてからりつに近づいた。りつの枕元に立って床に膝を着く。目元の怪我が酷かったりつは、顔の大部分を大きなガーゼと包帯に覆われていた。きっと殆ど周りが見えていない。
突然聞こえたゆうじの声に驚いたのか、りつの肩が大きく跳ねて、泣き声が止む。そして、ゆうじから顔を背けるようにガタガタと震え始めた。
「ひ、…っ、ごめんなさいっ。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
怯えきった小さな声で、何度も何度も「ごめんなさい」を繰り返すりつの姿は、あまりにも痛々しい。
きっと、目に見える体の傷よりも心に負った傷の方が何倍も深い。
今も、知らない場所で視界と体の自由を奪われて、どんなに怖い思いをしているだろう。
どうにかして、この子を救ってあげられないだろうか。
そんな想いがゆうじの中で芽生え始めていた。
「すみません、ちょっと2人にしてもらえますか。」
りつの様子を心配そうに見守っていた2人は、一瞬顔を見合わせたが静かに病室を出て行った。
二人きりになった部屋で、ゆうじはりつから少し離れて、ベッドサイドのパイプ椅子に座り、再び声をかける。
「りつくん。」
部屋に響く、りつが啜り泣く声。
未だ、小刻みに震えている体。
どんな言葉だったら、届くかな。
怖がらないで。
じっくり言葉を選んで、ゆうじはゆっくりと話し始めた。
「もう、我慢しなくていいんだよ。何も、我慢しなくていい。りつくんは、りつくんのものになったんだ。」
りつの心に届くように。
君の本当の声を聞かせて。
「よく頑張ったね。」
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