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りつのよる-6
りつは、静かにゆうじの声に耳を傾けていた。ゆうじも、あまり多くは語らなかった。きっと言葉じゃ足りないから。
どれくらい、2人で沈黙していただろうか。りつの消えそうな声が、ゆうじの鼓膜を震わせた。
「…ぃ…」
小さな声を絶対に聞き逃すまいと、神経を集中させる。
「…たい」
「うん。」
「いたい、よ…」
「うん。」
「か、かお…いたい、」
「うん。」
「手も、足も、背中も…ぜんぶ、いたいよ…っ」
「うん。」
こちらには顔を背けたままだったが、りつははっきりそう言った。
『痛い』と。
きっとそれが今のりつの全て。
体も、心も痛いと。
絞り出すようにりつから出たその言葉に、鼻の奥がツンと沁みた。
どうして気づかなかったのか、悔やんでも悔やみきれない。りつが苦しんでいる時、すぐ真下の部屋にいて何もしてやれなかった。先週も、先月もおかしいという直感はあったのに。あの時様子を見に行っていれば、この子はもっと早く助け出せたのに。
「もっと早く見つけてあげられなくて、ごめんね。」
頬を生温い雫が伝っていって、嗚呼、俺は泣いているのかと自覚した。
「痛かったよね、ごめん…っ」
りつに話しかける声さえも震えてしまって、情けない。泣きたいのは、泣いているのは、りつなのに。
りつもゆうじの涙混じりの声を聞いて、驚いたように顔をこちらに向けた。
その表情は、ガーゼや包帯でよく見えないがさっきより少し力が抜けているように見える。
りつはこちらをじっと見つめて何かを考えていたが、やがてぽつりとゆうじに言った。
「もう、たたかないで…いい子に、するから…っ」
その瞬間、ゆうじの中で意思が固まった。
この子は俺が守る。俺が絶対に幸せにする。
もうこんな顔をして、こんなに悲しい祈りを口にすることがないように。
「絶対に君を傷付けたりしない。約束するよ、りつくん。」
ゆうじは、りつの体を固定している拘束具を外し始めた。
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