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ゆうじとりつの部屋(2)
2人で同じベッドに入って暫くして、りつの寝返りがいつもより多いのが気になった。
布が擦れる音が、またひとつ。
「りつ?」
ゆうじは体をりつの方に向けて、名前を呼んだ。りつはこちらに背中を向けて丸くなっている。
「寝れない?」
「ん…」
りつが微かに頷く気配がした。
「暑い?寒い?」
「だいじょうぶ」とりつは答えたが、りつの大丈夫は当てにならない。
「腕枕は?」
小さな背中に向かって腕を伸ばすと、寝返りを打ったりつがもそもそとこちらに近付いてきた。
りつの頭を腕に乗せて、ゆっくりと背中を摩る。
りつは、眠るのが苦手だ。
朝起きて夜になったら眠る、という生活からは程遠い日々を過ごしてきた影響だろうか。父親の前では怖くて眠れず、やっと眠れた時でさえ猛烈な暴力で起こされる。そんな状況に置かれて、りつの自律神経は完全に壊れていた。
この家に来てすぐの頃も、眠れない日々が続いて倒れたこともある。
医者から睡眠導入剤も処方されていたが、ゆうじはあまりりつにそれを服用させたくなかった。思い切り甘やかして安心させてやれば、短時間でもちゃんと眠れることを、ゆうじは知っていたから。
「眠くなるまで少し話そうか。」
「ゆうじ、眠い?」
「ううん、俺も丁度寝れなかったから。」
「本当?」
「本当。」
丸い目をぱちぱちと瞬かせるりつは、まるで眠たくなさそうだ。
そういえば今日は変な時間にお昼寝してたっけ、と思い出す。
今日は長期戦になるかもしれないな、とゆうじは内心で苦笑した。
だけど全然苦痛じゃない。
りつと他愛もないことを話しながら、りつが寝入ったのを確認して自分も眠りに落ちる。そんな時間が、ゆうじは結構気に入っていた。
改めてそう考えると、今腕の中にあるものがどうしようもなく大切な宝物に思えてきて、胸が苦しくなった。
「りつ。」
名前を呼ばれて、素直に顔を上げるりつ。
「生まれてきてくれて、ありがとう。」
ゆうじは、形の綺麗なおでこにそっと唇を寄せた。
どうか今夜、りつの見る夢が幸せな夢でありますように。
『りつは、眠るのが苦手』
ゆうじとりつの部屋(2)
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