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ゆうじとりつの部屋(3)
外を歩くのは、少し苦手。
いや、苦手と言うより慣れていないと表現した方がきっと正しい。ゆうじに出会うまで、外に出たことはほとんどなかった。
おとうさんと2人で、暮らしていたから。
でも今は、ゆうじと2人で出かけることもある。
「りつー。」
月初めの金曜日。りつはゆうじに連れられて、毎月通っているところがあった。
「はい!」
ゆうじに呼ばれて玄関まで小走りで向かう。ゆうじはもう靴を履いてりつを待っていた。
「体調悪くない?」
急いで靴下を履きながら、ゆうじの質問に頷く。ゆうじに貰った靴下は、ワンポイントで黒猫の刺繍が施されている。
ねこちゃんが外側だから…。よし、右左合ってる。
靴下の向きをしっかり確認して、ゆうじに買ってもらった水色のスニーカーを履いた。
「よし、じゃあ行こうか。しんどくなったら言ってね。」
「うん。」
準備が整ったりつを見て、ゆうじが開けた玄関のドア。その向こうには眩しいほどの青空が広がっている。
室内にいたらあまり感じなかったけれど、外はこんなに暑いのかと目を細めた。
あの部屋にいた頃は、部屋から出ようものならどんな暴力が待っていたか分からない。りつの行動は完全に父親の支配下にあった。
だから屋外に出るのは、今でも少し躊躇いを感じてしまう。
本当に、外に出ていいのかな。
おとうさんに怒られたらどうしよう。
張り切って準備したのに、突然そんな恐怖に襲われた。1歩足を踏み出すのを躊躇していると、ゆうじが膝を折って顔を覗き込んできた。
「緊張してるの?」
ゆうじの優しそうな青い瞳の奥に、情けなく眉を下げる自分が映っている。
「…ちょっとだけ。」
「りつは何が不安かな?アスカ先生もちゃんといるよ。」
その言葉に首を横に振るしかない。
何が不安か、自分でも分からないのだ。
行先はいつも通っている病院だと言うのに。
ただ胸が押しつぶされそうなくらい苦しくて、怖い。
その時長い指が、目元を擽った。瞼を撫でる指は、りつを慰めるように優しい。
「終わったら、アイス買って帰ろうか。」
りつの好きないちご味、と笑うゆうじ。
その笑顔を見て、きゅっと奥歯を噛みしめた。
「手、つないでもいい…?」
「もちろん。」
温かい手のひらに、傷だらけの手が触れて優しく包まれる。いつもりつにたくさんの勇気をくれる神様の手。
この温もりがあれば、どこへだって行ける気がした。
『外を歩くのは、少し苦手。』
ゆうじとりつの部屋(3)
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