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りつのよる(2)-1sideゆうじ

りつと暮らし始めて2週間。 りつの様子を見るために、働いていた会社は辞めて一日中りつに付き添っていた。わがままも言わなければ、文句も言わない。どこまでもゆうじの後をついてくる鳥のヒナのようだった。 初めこそ慣れない場所で落ち着かないのか、急にパニックになったりゆうじを怖がったりしていたが、それも段々落ち着いている。時々笑顔まで見られるようになって、順調に経過していると思っていた。 その日、昼食を作っている途中でベーコンがないことに気が付いた。今日の昼食はカルボナーラ。初めて食べると目を輝かせていたりつのために、ゆうじも張り切っていた。 ベーコン、買い忘れてたか…。なくてもいいっちゃいいんだけど…。 リビングにいるりつに目を向けると、退院祝いにゆうじが送ったぬいぐるみを抱えてソファに座り、船を漕いでいた。りつの呼吸に合わせてゆらゆらと揺れる頭。 初めてだけど…ちょっとだけなら、留守番できるかな。 折角なら美味しいカルボナーラを作りたい、とゆうじは近所のコンビニまで買い出しに出ることにした。 玄関まで着いてきたりつに、誰か来ても絶対に出ないことを言い聞かせて、コンビニに向かった。コンビニで目当てのベーコンと、りつが好きなプリンを買って真っ直ぐ家へ帰る。 時間にすると、10分程度。 「ただいまー。」 玄関のドアを開け、りつに呼びかけるが返事はない。 さっき眠そうだったし寝てしまったのかとゆうじはリビングに入った。 「ごめんね、りつ。買い忘れたものがあっ、て…」 ソファの前に回り込んで、横になっているりつに声をかけたつもりだった。だけどそこにりつの姿はない。 「りつ…?」 ぐるりと部屋を見渡しても、やはりりつはいない。 「…トイレ?」 少しの不安が胸を過ぎったのとほとんど同時に、キッチンから物音がした。 カタリ、と何かがぶつかるような音。 ゆうじはすぐにキッチンへと向かう。 「キッチンで何してるのー?りつー?どうした…の…」 プリン買ってきたよ、と続くはずの言葉はそこで途切れた。 そこはもう見慣れた生活空間ではなかったから。

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