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りつのよる(2)-2
血
血
血
床一面に広がる真っ赤な、血。
その血溜まりの中央で座り込む、りつ。
元々白い肌が、今は血の気を失って青白くなっていた。
左手にはゆうじが流しに置いていた包丁を持っている。右腕からは、真っ赤な血が噴き出すように流れ落ちていた。
「…あ、…ご…ごめ、な…」
りつは、ゆうじが入ってきたことに驚き、震える唇で謝罪の言葉を口にする。瞳からは大粒の涙が次から次へと落ちていくのが見えた。
目の前に広がる光景が、あまりにも非日常で、脳内の情報が完全に許容量を超えている。
声も出ない、体も動かない。
それは数秒だったのか、数分だったのか定かではないが、突然りつの手から包丁が滑り落ちた。
床に包丁が転がるのと一緒に、りつの体もゆっくり傾いていく。
「りつ!!!」
叫ぶように、名前を呼んだ。
鈍い音がして、りつの体も床に倒れた。
「りつ、りつ!!」
やっと動いた足をもつれさせながらりつに駆け寄り、肩を揺する。
「聞こえる?ねえ、りつ、返事して。お願い、りつ…っ!りつ!!」
りつの唇は真っ青で、顔色も更に悪くなっていく。瞼も完全に閉じてしまっていて、ゆうじの声に応答はない。だというのに自分の手はりつの温かい血でどんどん赤くなっていくのだから、頭がおかしくなってしまいそうだった。止血とか手当とか、そんなことも全て吹き飛んでいた。
当時の自分がどうやって、何をしたのかさっぱり覚えていない。けれど気が付くと慌ただしく救急車と消防隊員が来ていた。
「何でもするから、この子を、りつを助けてください…っ!!」
担架で運ばれるりつに付き添いながら、縋るようにそう叫んだ。
まだまだこれからなんだ。
りつはこれから幸せにならなきゃだめなんだ。もう充分苦しんだから、どうか。どうか。
集中治療室に入っていったりつを見送って、待合室で1人、両手で顔を覆う。
どうしてりつを置いて出かけたりしたんだろう。どうして大丈夫だなんて思ったんだろう。
どうして、どうして。
もし、このままりつが…。
縁起でもないことを考えて、
寒気も吐き気も鳥肌も止まらない。
神様、りつを連れていかないで。
こんなに誰かがいなくなることを怖いと思った夜はない。
こんなに誰かのことを祈り続けた夜はない。
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