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りつのよる(2)-6

喉が引きつってしまったように、音が出ない。 “死にたい”と言うりつに、かけるべき言葉は何だろうか。 なんとかりつのいる場所に、僅かでもいい、光が届くような言葉を必死で探した。 泣かないで、りつ。 「りつが、大好きだよ。」 口を開いて、やっと出てきた言葉は可笑しいくらい陳腐で単純なものだった。 「りつは優しいし、頑張り屋さんだから、疲れちゃうよね。でも、俺はりつが頑張ってなくてもりつのことが大好き。」 思い出すのは、出会ってから今日までのりつの姿。 たくさんの傷を負って、泣いて、叫んで、絶望して、諦めて、それでも俺と向き合ってくれた。もう一度やり直すために、必死で努力してくれた。 「りつの笑ってる顔が好き。俺まで笑顔にしちゃう力が、りつの笑顔にはあるんだよ。りつの寝顔が好き。安心して眠ってる顔見ると、嬉しくなる。りつの食べてる顔が好き。幸せそうに食べてるりつを見るとね、もっと食べさせてあげたいなあって思う。」 入院中も、退院してからも、りつはずっと頑張ってきた。俺や周りの期待に応えようと。 いいんだよ、そのままのりつがいい。 「りつの、泣いてる顔も好き。」 りつの赤く泣き腫らした目が、ゆうじの方を向いた。 「抱きしめて、溶けちゃうくらい甘やかしてあげたくなる。」 揺れている焦げ茶色の瞳。その目の奥に、きっとまだ光は残っている。どうか消えないで。 「ねえ、りつ。」 ゆるりとりつが首を振った。 その仕草に、心臓がきゅっと苦しくなる。 ごめん、りつ。これは俺の我儘かもしれない。 だけど知ってほしい。 りつの命は、俺にとって他の何かに変えられないんだ。 「俺と一緒に生きて。まだ、りつの近くにいたいよ。りつとしたいこと、行きたいところ、食べたいもの、見たい景色がたくさんあるんだよ。」 君は、愛されるために生まれてきたんだから。 「お願い。俺からりつを奪わないで。」 気が付くと、ゆうじの両目からは涙が溢れていた。 どんどんぼやけていくりつの顔。 「ゆうじ…」 りつの声変わりしていない幼い声が聞こえる。 「泣いてるの?」 思わず、噴き出してしまった。 この状況で泣いてるの、なんて。 「りつもだよ。」 涙でぐちゃぐちゃの顔で、2人。 強く手を握り会いながら笑った。

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