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りつのよる(2)-7
その後リストカットをしたことで、りつの生活環境を疑われ、ゆうじはりつと引き離されそうになった。けれどりつの「ゆうじと帰りたい。」という強い希望で、もう一度だけ2人にチャンスが与えられた。
「本当にいいの?」
退院の日、ゆうじは何度もそう問いかけた。
「うん。ゆうじがいいの。」
その度にはっきりとそう言うりつの目に迷いは見えない。
嬉しいような、こそばゆいような、不思議な気持ちを抱きながら、2度目となる退院の準備をした。前回より少し増えたりつの荷物。
着替えと日用品を詰めて、りつのお気に入りのクマのぬいぐるみをりつに持たせる。
そろそろ部屋を出ようと声をかけようとした時、ぬいぐるみを両手で抱えたりつが名前を呼んだ。
「ゆうじ。」
栗色のクマで口元を隠して、何か言うのを迷っている。
なんだろう、とりつの前にしゃがんで目の高さを合わせるともじもじしたりつが怪我をしてない左手を差し出してきた。
「手、繋ぎたい。」
その手を見て戸惑うゆうじ。
りつは他人に触れられることを何よりも怖がっている。暴力以外で触れられたことはないからだ。
自然とゆうじも、先日のような緊急事態以外はりつに触れるのを躊躇っていた。
「…いいの?」
驚くゆうじに、りつは頷く。
「ずっと繋いでくれてたの、知ってたよ。ずーっと、温かかったから。」
あの夜一晩中りつの手を握って、祈っていた。早く目を覚ますように、また笑ってくれるように。ただその一心だった。
その想いは、少しでもりつに伝わっていたのかな。
「ゆうじの手は怖くない。」
狼狽えるゆうじの手を、りつが掴んだ。
りつの方から触れてくるのは初めてだった。
大きな過ちを犯した自分を、まだこんなにも信頼してくれている。
「もう、1人にしたりしない。絶対大事にするからね。」
小さな手を握り返して、ゆうじは改めて誓った。
「俺たちの家に帰ろう、りつ。」
数日ぶりに2人で帰った家は、1人で過ごしていた時より明るく感じた。
不安も勿論あるけれど、「ごめんなさい」じゃなくて「ありがとう」を沢山言おうとりつと約束した。
けれどそれから、りつの自傷行為は酷くなっていく一方だった。
りつのよる(2)
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