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最後の日-1※暴力、流血表現あり
気が付いたら、僕の生活の全ては“おとうさん”が支配していた。
おとうさんの機嫌を損ねないように、おとうさんの視界に入らないように、物音を立てないように。僕を見ると、おとうさんはすごく怒るから。そしたら僕は、呼吸をするのも苦しいくらいの罰を受けるから。
息を殺して、じっと、ただそこに存在するだけ。
あの日もそうだった。
「気持ち悪いな!こっち見るな!」
脳みそに直接響くような鋭い破裂音と、全身に感じる衝撃。体が壁に叩きつけられて、視界がぐらぐらと揺れた。
痛い。もうどこが痛いかなんて分からない。
とにかく全てが痛い。
けれど、ここで痛いなんて言って泣こうものならどうなるか。もっと酷い仕打ちが待っていることはこれまでの人生で身に染みて分かっている。
ギシギシと音が聞こえるような気がする体を無理矢理動かして、床に額を擦り付けた。
「…っ、ごめ…なさい…っ」
謝る時はこうするのだと、教えられた。跪き、頭を垂れて謝罪しろ、と。
口からは鉄のような味がして、床にボタボタと赤い血が滴っているが、そんなことも気にしていられない。これ以上おとうさんの気分を害さないように必死で謝った。
何がトリガーだったのか、分からない。
酷く酔っ払って帰ってきた父親に、りつは怯えて部屋の隅に隠れるように小さくなっていた。酒癖が悪い父に、見つからないようにしなければ。ぼさぼさに伸びきった前髪の間から、部屋に入ってくる父親の姿を確認して膝を抱えている腕に力を込めた。
おとうさんは、床に転がっている酒瓶を掴んで浴びるように飲み始めた。片手には、赤く燻る煙草を持っている。あれは先日、何度も腕に押し付けられた。熱くて痛くて泣き叫んだのをはっきりと覚えている。
今のおとうさんに見つかりませんように、と神様に祈った。
だけどやっぱり神様なんてどこにもいない。
じっと父親の動向を伺っていると、不意にこちらを振り返った彼と目が合った。
その瞬間に、りつの全ては恐怖に支配されてまともに呼吸すら出来なくなる。
あっという間に髪を掴まれて部屋の中央に引きずり出された。
そこからはいつもと同じ。
「お前のせいで!」
「気持ち悪い!」
「死ね!!」
まともに働かない頭と体をなんとか奮い立たせて、ひたすら謝った。
ごめんなさい。おとうさん、もう許して。
意識がぼやけていく。
痛みも苦しみも感じない。
聞こえるのは、自分の体が痛めつけられる音だけ。その音すらどこか他人事のように聞こえる。連日の暴行で、精も根も尽き果てた。
もう、いいや。どうでも。
僕、頑張ったよね?
もう、いいよね?
髪の毛を鷲掴みにされて、思い切り投げ飛ばされる。脇腹から嫌な音がした。
「…ごめん、なさい」
目を開けても、最早視界が真っ暗だ。
ごめんなさい
ごめんなさい
もう殺して
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