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最後の日-2※暴力、流血表現あり
りつの反応が段々薄くなっているのが気に食わないのか、父親からの暴力は酷くなる一方だった。
「りつ、聞こえてんてのか?あ?りつ!!起きろ!」
蹴られ、殴られ、引き回され、りつの意識はとどん遠ざかっていく。
「…っ、…、」
辛うじて口にしていた謝罪の言葉さえ、もう声にならない。口の端から漏れるのは、生温い血液だけ。
「おい!!!」
再び髪を掴まれて、頭をぐらぐら揺すられる。
最早瞼を開く気力もない。とうとう四肢からぐったりと力が抜けたりつを見て、父親は不審そうに眉をひそめた。
「…りつ、おい。ふざけてんじゃねえぞ。また殴られたいのか。りつ!」
父親は、何度かりつに呼び掛けていたが、反応がないことが分かるとりつを床に放り投げ、早々に荷物を纏め始めた。そして、りつの方に一瞥もくれることなく、足早に部屋から出て行った。
「お前なんか、生まれてこなきゃよかったのに。」
それが最後に聞いた父親の言葉。
玄関のドアが閉じる音が聞こえる。
いつもりつを置いてどこかへ出かけていく父親。けれど今なんとなく、きっと彼はこのまま帰ってこないのだと思った。
自分はここに捨てられたのだ。
まって、おとうさん…
いかないで…
すてないで…
「お、と…さ…」
最後の気力を振り絞ってただただ重い体で、這うように玄関まで進む。
涙が止まらない。呼吸が苦しい。
どんなに横暴で理不尽で残酷な人でも、りつにとって、唯一の人だった。
ただ笑ってほしかっただけ。撫でてほしかっただけ。
それはこんなにも、許されない願いなの?
「ごめんなさい。」
やっと辿り着いた玄関で一人、うつ伏せのまま蹲ることしかできない。
何のために生まれてきたんだろう。たった一人に愛されることすらできない。
このまま泣いて泣いて泣き疲れて、ひとりぼっちで死んでいくのかな。
寂しい。
寂しいよ。
もう何も考えたくない。早く楽になりたい。
りつが意識を手放そうとしたのと、インターホンが鳴ったのはほとんど同時だった。
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