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最後の日-3
この部屋でインターホンを聞いたのは数える程しかない。誰が来ても絶対に顔を出すなと強く言い聞かされてきた。
だからりつは、条件反射で息を殺す。
見つかっちゃいけない。
おとうさんの言いつけを、ちゃんと守らなくちゃ。
ぼんやりと記憶にあるのはそこまで。
気が付いたら、真っ白な天井の部屋にいた。
そこで出会った、綺麗な人。
いつか夢で思い描いていた神様みたいな人。
青く澄んだ瞳に、太陽の光が透けているような栗色の髪。
あんなに優しく名前を呼んでくれたのは、初めてだった。
手足を拘束されてパニックになっていた僕を解放してくれた。
初めてだったんだよ。
僕のために怒って、悲しんで泣いてくれた人は。
痛みと苦しみしか知らなかった僕に、それ以外の感情を教えてくれた。初めてベッドで気が済むまで眠った。増えるばっかりだった傷が減っていく。呼吸するのもしんどかった胸の痛みが消えた。
ほとんど毎日お見舞いに来てくれるゆうじが、大好きになった。一緒に暮らそうって言ってくれて、本当に本当に嬉しかったんだ。
足りないものばかりの僕だけど、ゆうじの隣にいても恥ずかしくないくらい素敵な人になるから。
怒られないように、叩かれないように、捨てられないように頑張るから。
おとうさんは今、何してるかな。
ゆうじからは旅行に出かけたって聞いたけど、元気かな。
おとうさんもどうか、幸せに暮らして。
いつかまた会えた時は、笑ってくれるかな。
最後の日
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