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あのね
朝からりつの様子が少しおかしい。
週末にまとめて家事を終わらせるゆうじに付かず離れず、微妙な距離を保ったままずっとこちらの様子を伺っているような気がする。
何か言いたそうにも見えるんだけど…。あんまりこっちから聞くのもよくないのかな。
自分の気持ちを言葉で伝えることに消極的なりつ。どうすれば遠慮しないで何でも話してくれるようになるんだろうかと、ずっと考えている。
何が足りないんだろう。俺の何が…。
そんな考えに耽りながらサンルームで洗濯物を干していると、後ろからりつの控え目な声が聞こえた。
「ゆうじ。」
「んー?どうした?」
サンルームの入口に立っているりつは、体の前で自分の手を握り、不安そうに眉を下げている。
「…あの、…あのね、」
「うん?」
持っていたシャツを置いて、ゆうじはりつの正面に立った。
「何かあった?」 そう聞こうとすると、お腹に感じるすとんという軽い衝撃。
りつが抱き着いてきた。
背中に回っている細い腕が、ぎゅうぎゅうとゆうじの体を締め付けている。苦しいほどの力ではないが、りつがこんなことをするなんて珍しい。りつからのスキンシップ自体が、ほとんどないからだ。
「りつさん?どうしたの、今日は甘えん坊?」
「うぅ〜…」
触り心地のいいりつの髪を撫でると、唸りながらゆうじのお腹に額を擦りつけてくる。
珍しくやけに甘えたなりつに、ゆうじの頬も無意識のうちに緩んでいく。
「りーつ?そんな可愛いことしてると俺も抱き着いちゃうよ?」
身長の低いりつを、覆い被さるように頭ごと抱きしめた。
苦しい、と言いながらもりつは楽しそうに笑う。
もしかして、朝からずっと甘えたかったのかな。
構って欲しいと言いたくて、言い出せなくて、それでそわそわしてたのかな。
我慢できなくなって、リビングから俺のことを追いかけて来たのかな。
そう思うとむくむくと湧き上がる、この擽ったくて暖かい気持ちは何だろう。
ゆうじはりつの背中を撫でて、耳元で囁いた。
「折角晴れてるし、これ干し終わったら散歩でも行く?」
「いいの?」
ぱっと顔を上げたりつの目は、日光を受けてきらきらと輝いて見える。
「うん。りつと散歩行きたいな。」
「ぼ、僕も!ゆうじとお散歩したい!」
弾ける笑顔で頷くりつは、今きっと世界で一番可愛い。
意外と甘えん坊なのかもしれないな。
また1つ、僕が知らない君を知れた気がした。
あのね
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