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不安と優しさと-2sideゆうじ

「本当にすまん!」 全社員の前で頭を下げる社長を見て、1人だけ素知らぬ顔をしているなんてできなかった。 1番のお得意先に納入する予定だったソフトウェアに、大きなミスが見つかった。システムの本格稼働は来週。今年度で1番大きな開発テーマだったが、現状だと顧客が求める仕様を満たしていない。このままだとクレーム…いや、それ以上の損害を被るかもしれない。 普段は小さなチームに別れて仕事をしているエンジニア達が、全社をあげて協力体制を構築し、なんとか納期に間に合うように作業をすることになった。勿論定時内で終わるようなスケジュールではない。全ての時間と人員を動員する計画だ。 そして今日は納期の前日。皆会社に残って徹夜で追い込みをかけるらしい。 殺伐とした空気のオフィスを見渡し、ゆうじは溜息を零す。 「こんな進捗でほんとに間に合うのかよ…」 今日の作業スケジュールに自分の名前がないことを確認して、ゆうじは社長のデスクへ向かった。 「俺がいなくて、間に合うわけ?」 ゆうじの言葉に、苦笑いしながら顔を上げる社長。 不精髭を生やした人の良さそうなこの男は、ゆうじの古くからの友人だ。りつの体調に合わせて不規則な時間で働きたい、というゆうじの願いを聞き入れてこの会社に雇ってくれた。 「ここ、半日じゃ終わらないし、これじゃ仕様満たしてないだろ。」 スケジュールの穴を何点か指摘していくと、社長の表情はどんどん渋くなっていく。 よく見ると彫りの深い目の下に大きな隈がある。連日の激務で疲れ果てているのは、社員も社長も同じだ。 「今日は俺も最後まで手伝うから。」 溜息混じりのゆうじの言葉に、社長は目を丸くする。 「お前はいいよ。りつくんもいるだろ?こっちで何とかするから…、」 「何とかってどうするつもりだよ?俺がいたら早く終わるんだろう?」 「まあ、それは…そうなんだが…」 「元々今日は遅くまで残るつもりだった。死ぬ気で早く終わらせて帰るぞ。最悪でも日付が変わる前に。」 社内で過去に類似の案件に携わったことのある人間は、ゆうじ1人。 りつの事情を知っている社長はしばらく渋っていたが、りつが眠る前にりつに連絡を入れることと、仕事が終わらなくても日付が変わる前には帰宅することを条件にゆうじが残っていくことを許可してくれた。

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