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不安と優しさと-3

「よし。これでとりあえずは向こうに出せるかな。あとは稼働させながら適宜更新して…」 すっかり固まってしまった肩をほぐしながら、部下へと仕事を引き継いでいく。 なんとか形になった。ここまでやれば一通り仕様を満たした動きはしているはずだ。 PCのモニターで確認した時刻は、午前1時。予定していた時間を大きく越えてしまった。きっとりつが寂しがっている。 散らかったデスク周りを適当に片付けながら家に帰るまでの最短ルートと時間を計算していると、後ろから申し訳なさそうな声が聞こえた。 「本当にすまん。結局こんな時間まで…」 「大丈夫だって。じゃ、悪いけど先に帰る。」 「明日!有休扱いにしておく!りつくんにも謝っておいてくれ!」 「サンキュ。」 右手だけを軽く上げて、ゆうじは足早にオフィスを後にした。 きっと眠れていないだろう。 もしかしたら玄関で待っているかもしれない。 自宅に1人残してきてしまった愛しい子を思い浮かべながら、アクセルを踏んだ。 会社から自宅までは車で30分程度。夜中だったため、道が空いていて助かった。 急いで鍵を開けて、家の中の様子を伺う。 「りつ?」 リビングの方から、りつが嘔吐く苦しそうな呻き声が聞こえた。 りつは怖い夢を見るといつも胃の中の物を吐いてしまう。 今日も悪夢に魘されたんだろうか。早く介抱してあげないと。 鞄を玄関に放って声がする方へ辿っていくと、リビングのドアの前で蹲るりつの姿があった。 「気持ち悪い?吐けそう?」 すぐに駆け寄って震える背中を擦りながら、腕や体に視線を走らせる。どこも血は出ていないし、パジャマも乱れていない。 よかった、自分で傷付けたりはしてないみたいで。 そう思ったのも束の間。 りつの顔を覗き込んで、様子がおかしいことに気が付いた。おかしい、というか普通じゃない。 「う…、ぅ…っあ…」 苦しそうに歪んでいる顔はどこか虚ろで、手や足に殆ど力が入っていない。嘔吐しているというよりは、痙攣に近い。 「りつ…?」 ゆうじの呼び掛けにも反応らしい反応がない。 りつの周辺をもう一度よく見渡すと、ぐしゃぐしゃになっている白い紙袋が廊下の隅に落ちていた。 あれは、りつが通っている病院の…まさか…いや、だってあれは引き出しの奥にしまってあったはず… 手を伸ばして袋の中身を確認すると、案の定中には何も入っていない。そしてりつの吐瀉物には、溶けかけた錠剤がいくつも混ざっていた。 「りつ…これ、全部飲んだの?嘘でしょ…」

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